「野戦病院」の提案

 この連載では、新型コロナの重症治療は、大学病院など大病院に病床、設備、医師、看護師を集約して行うべきだと主張してきた(本連載第262回)。だが、さまざまな阻害要因があり、無理のようだ。

 そこで、最後の「切り札」として、自衛隊に「野戦病院」の設置を要請することを提案したい。

 自衛隊に対して都道府県知事から「災害出動」(陸上自衛隊『災害派遣の仕組み』)という形で要請する。まずは、関西圏と首都圏の知事からの要請で、関西圏は伊丹、宇治の、首都圏は朝霞の自衛隊駐屯地に「野戦病院」を設置する。そして、大阪、東京などの入院患者を移して、新規入院者の受け入れを行う。

 これらの駐屯地には、野戦病院の設置が可能な広大な土地があり、感染者を緊急搬送することが可能な都市部との交通アクセスがある。

 野戦病院とは、負傷者を野外で治療する大規模な移動式救護施設である。本来、戦場・戦時に大型テントを主要設備として設置するものなので、設置に時間はかからない。1週間以内くらいに設置して、病院としての運用を開始する。

 病床は、関西圏は伊丹・宇治を合わせて、関東圏は朝霞に、重症用病床500床、中症用病床2000床をそれぞれ設置する。野戦病院としては規格外の大規模なものになるので、全国の自衛隊病院に約1000人ずついる医官看護官から可能な限り集約する。

 自衛隊は、東京と大阪に設置されるワクチンの大規模接種センターに医官と看護官を派遣することになっている。防衛省は医官80人、看護官200人の派遣と発表しているので、人数的にワクチン接種と野戦病院の両立は問題ないだろう(朝日新聞『自衛隊の大規模接種センター、東京は「最大1日1万人」』)。

 また、第1種感染症指定医療機関として重症者、中軽症者を受け入れている自衛隊中央病院の医師・看護師も派遣する。

 自衛隊中央病院は、2020年1月の中国・武漢からの帰国者受け入れの政府チャーター機内での検疫支援の看護官派遣、チャーター機帰国後の有症患者の受け入れや、ダイヤモンド・プリンセス号の患者発生への対応、「感染拡大防止に係る災害派遣活動」を経験している。そして、ダイヤモンド・プリンセス号から搬送された新型コロナ感染症104症例の特徴を分析し、報告書にまとめている(自衛隊中央病院『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について』)。これらの貴重な経験を、最大限に生かしてもらうのだ。