コロナ禍で全国一斉休校になった際、オンライン授業の有無で公立学校と私立学校に格差が生まれた。公立が総じて「フリーズ状態」に陥ったのに対し、私立学校は対応が進んだ。炭鉱のカナリアは、受験生の「公立離れ」という危険を知らせている。特集『教師 出世・カネ・絶望』(全15回)の#2では、『教師と学校の失敗学』(PHP新書)を5月に上梓した教育研究家の妹尾昌俊氏が、コロナ危機の中で生じた学校教育の失敗を斬る。
オンライン授業でフリーズ
「もう公立学校には期待しない」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で全国一斉休校が決まった昨春、多くの校長や教師は卒業式をどうするか、通知表をどう渡すかに腐心した。
しかし、卒業式は卒業生と教職員のみ出席とするなど開催方法の工夫はできるし、通知表はすぐに出さなくたっていい。そんなことよりもっと深刻な問題である「休校中の学びをどうするか」について、彼らは知恵を絞るべきだった。
多くの学校が共通して行ったのは「プリント爆弾」。大量の宿題プリントや紙のドリルを配って、「家庭でやっておいてください」と告げた。
大量の家庭学習を前に「お子さんの面倒を見てあげてください」と学校から言われて、悲鳴を上げる保護者が続出した。「学校は保護者の大変さを理解していない」「学校は閉めて、プリントを渡して後はおうちでよろしくって、勉強は家庭に丸投げですか」という声が多数上がった。
文部科学省が2020年6月に全国の教育委員会を調査したところ、休校中の公立学校においてオンラインで双方向性のある授業などができた自治体は、小学校で約8%、中学校で約10%、高校で約47%だった。これは回答した設置者である教育委員会の割合であり、該当する学校が自治体内に1校でもある場合はイエスと答えている可能性がある。学校を単位に実際の実施率を測ると、もっと低い可能性が高い。
休校から2カ月、3カ月がたっていたにもかかわらず、多くの公立学校は有効な手だてを講じることなく「フリーズ状態」(身動きが取れないまま)だったのである。
対して私立学校は徐々に対応が進んだ。
首都圏模試センターが20年6月中旬に首都圏の私立中学校・高校を対象に実施したアンケート調査(112校回答)によると、授業やホームルームへのオンライン活用を開始した時期は3月中が17.9%、4月中が51.8%、5月中が28.6%。調査時点で開始していないところはゼロだった。
限られた地域、学校の回答なので全国的な状況までは分からないが、私立学校は高い授業料を受け取っていることもあり、オンラインでの授業をやらないという選択肢はなかったのだろう。公立で見事なオンライン授業をやってみせた学校もあるが、総じてオンライン授業で公立と私立の間に格差が生じた。
結果、動きの鈍い公立に見切りを付けたのか、「もう公立学校には期待しない」という保護者、生徒が増えているようだ。二つの側面からそう示唆されている。