過去の裁判はことごとく負けた
今回の勝機はどこにあるのか

 被告の埼玉県は「正規の勤務時間の内外を問わず『包括的に評価』した結果として教職調整額を支給するというのが給特法の立法趣旨だ」と主張。つまり田中氏の未払い残業代請求に対し、そもそも「無賃労働ではない」と反論する。

 また田中氏の「校長は明示・黙示の命令の下、業務に従事させていた」との主張に対しても真っ向から反論する。給特法や関連法令の下では「超勤4項目以外の業務について時間外勤務命令を行うことはできない」「命令に基づく時間外勤務は発生し得ない」からだ。

 田中氏が勤務した小学校の校長も陳述書の中で、「指示や直接の命令をしたことはない」「協力依頼を行った」「教師としての本来業務である」などと、田中氏の主張を退ける“決めぜりふ”を次々と並べた。

 それらに対し、田中氏は「あくまで『協力お願いです、命令ではありません』と。それで通りますか、一般企業で?」と憤りを隠さない。

 裁判のポイントをまとめると以下のようになる。

 過去にも教師や教職員労働組合による類似裁判は数多く起こされており、部分的に請求が認められた事案もあるが、おおまかに言えば教師側がことごとく負けてきた。

 埼玉大学教育学部の高橋哲准教授の鑑定意見書によると、類似裁判は2類型に大別され、「給特法違反の時間外勤務命令の存否を争う裁判」と「労基法37条違反による超過勤務手当を請求する裁判」だ。

 今回の裁判がこの2類型と異なるのは、「正規の勤務時間外になされた超勤4項目以外の業務について、初めて『労基法上の労働時間』該当性の法律判断を求めている点」だという。

 つまり裁判の過程で予備的請求として加えた、労基法32条違反による国家賠償請求の部分。1日8時間、1週間40時間を超えて労働させたことが違法であり、「長時間労働を恒常的に強いられたことに対する慰謝料が認められるべき」と主張しているのだ。高橋准教授は「判決は行政・立法措置を起動する重要な契機となり得る」と期待する。

 文部科学省は今春、現場の教師から仕事の魅力を伝えてもらおうと「#教師のバトン」でTwitter(ツイッター)への投稿を求めた。ところが教師たちはブラック職場であることを伝えまくり、世を驚かせた。教師に同情する世相もあり「学校現場に革命をもたらす判決が下されるかもしれない」と、全国の教育業界関係者は9月の判決に注目している。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata