西南戦争を「地理視点」で見ると?

宮路:鹿児島から東京っておよそ1300キロあるんです。陸続きとなっている場所では西の一番遠いところからですから、その移動だけでもたいへんです。

 西南戦争のさい、主力部隊は陸路で東上するという案が採用されましたが、これだけの距離を数万という兵を抱え、戦いながら、兵のお腹も満たしながら進んでいくなんて、現実的ではありません。

 本当に新政府を倒したいと思ったら、東京まで一気に船で行った方がいいに決まっています。

──確かに…。

宮路:でも、実際は陸路で進んで、結果として熊本で押し返されて鹿児島に戻ってきています。地理的に見れば、「最初から東京へ行くことなど想定されていなかった」と解釈できます。つまり西郷隆盛は自らの時代の役目が終えたことを悟り、不平士族たちを抱えて「死に場所」を見つけていたのではないかと思われるわけです。

 こうした地理的背景を見ていくと、歴史上で起こった出来事の意味や目的がクリアになり、深い解釈が可能になってきます。「歴史と地理は車の両輪」と私が言うのはそのためです。歴史だけを学ぶのでもダメですし、地理だけでもダメです。

──そうですね。『経済は地理から学べ!』の中にも「東京に人々が集まる2つの理由」という話があって、「歴史と地理」の2つの視点の大事さがよくわかりました。

宮路:歴史学者ほど地理的考察にものすごく興味を示し、地理的背景をしっかり調べますよね。そうでなければ本当の歴史の紐解きにならないからです。

 私は「歴史と地理」をことさらに分けて考えること自体に違和感を覚えています。だから、もっと多くの人に地理を学んで欲しいと思っています。

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「西郷隆盛は西南戦争に勝つ気がなかった」論の意外すぎる根拠とは?宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員
鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。
地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。
生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当するなど、いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ! 』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。
またコラムニストとして、「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、トークイベントの開催、YouTubeチャンネルの運営、メルマガの発行など幅広く活動している。著書に『経済は地理から学べ! 』(ダイヤモンド社)、『目からウロコのなるほど地理講義(系統地理編)・(地誌編)』(学研プラス)などがある。
「西郷隆盛は西南戦争に勝つ気がなかった」論の意外すぎる根拠とは?