スティーブ・ジョブズ
二〇〇五年六月
今日は世界有数の大学の卒業式に皆さんと同席でき、とても光栄に思います。実を言うと、私は大学を出ていません。これが卒業式に最も近い経験となります。
今日は、私が人生から学んだ三つの話をします。ただそれだけです。たった三つの話です。
最初の話は「点と点をつなぐ」ことについてです。私は養父母に育てられました。両親は、生みの母との約束を守り、私をリード大学に入れてくれました。
でも私は、自分が何をやりたいかわからず、大学が自分にとってどう役立つのかわからなかったのです。そして、両親が生涯かけて蓄えたお金をすべて使い果たそうとしていることが嫌になり、学校を半年で中退しました。これですべてうまくいく、そう思っていましたが、正直に言えば怖かった。
その後しばらく大学に居残り、面白そうな授業にもぐり込みました。その一つがカリグラフィ(装飾文字)です。当時、これが人生に役立つとは思えませんでしたが、一〇年後、この知識のおかげでマッキントッシュに美しいフォントを装備することができました。
将来、点と点がどうつながるかはわかりません。しかし、振り返ってみれば明らかです。バラバラの点であっても、いつか必ずつながると信じること。そうすれば、たとえ人と違う道を歩むことになっても、自信を持って自分の心に従うことができるのです。
二つ目の話は「愛と敗北」についてです。私は二〇歳のときにアップルを創業し、一〇年間で売上高二〇億ドル、社員四〇〇〇人の企業に成長させました。しかし、マッキントッシュを世に出した一年後、社内の対立から、会社を追われたのです。
しばらくの間、生きる目的を失っていましたが、やがて自分の仕事を愛しているということに改めて気づき、やり直しました。続く五年で、NeXT(ネクスト)とピクサーを立ち上げ、素晴らしい女性と恋に落ち、彼女は私の妻になりました。その後、アップルがNeXTを買収し、私はアップルに復帰したのです。NeXTで開発した技術は、中核技術として今日のアップルを支えています。アップルをクビになっていなければ、そうはならなかったわけです。
ときとして、人生にはレンガで頭を殴られるようなひどいことが起きます。しかし、決して信念を捨ててはいけません。私は、自分の仕事を愛しているという気持ちがあったから、くじけずにやってこられました。皆さんの人生でも、仕事が大きな部分を占めていくでしょう。本当に満足するただ一つの方法は、素晴らしいと信じる仕事をすることです。そして、素晴らしい仕事をする秘訣は、自分の仕事を愛することです。もしそれがまだ見つかっていなければ、探し続けるしかありません。妥協してはならないのです。
三つ目の話は「死について」です。「毎日を人生最後の日だと思って生きろ」。そう自分に言い聞かせてこれまで生きてきました。いつか死ぬ日が来ると思えば、人生で重要な選択をするとき、大きな助けになります。周りの期待、自分のプライド、失敗や恥をかくことへの恐れなど、死の前では無意味になり、真に重要なことだけが見えてくるからです。
一年半前、私は医師にすい臓ガンと診断され、残された時間は三カ月から半年と告げられました。死を意識したものの、生体検査の結果、そのガンは奇跡的に手術ができる、ごくまれなタイプだと判明しました。私は手術を受け、復活しました。死に近づいた経験を通して、いま、確信を持って言えることがあります。
皆さんの時間は限られています。決して他の誰かの人生を生きてはいけません。内なる声と直感に従う勇気を持ってください。それは自分が本当になりたい姿を知っているはずです。
私が若かった頃、『全地球カタログ』という偉大な本がありました。これは、私たちの世代にとってバイブルともいえるものでした。ここからそう遠くないメンロパークに住むスチュワート・ブランドという人が手掛けたもので、彼の詩的なセンスが本に息吹を吹き込んでいました。
一九六〇年代後半、まだパソコンもデスクトップ印刷もなく、すべてはタイプライターとハサミとインスタントカメラでつくられていました。グーグルの登場より三〇年以上も前につくられた、いまで言うグーグルのペーパーバック版とも言えるもので、理想に燃え、いかしたツールと素晴らしいアイデアにあふれていました。
スチュワートと彼の仲間は『全地球カタログ』を何度か発行し、一通りやり尽くしたところで最終号を出しました。一九七〇年代半ば、私はちょうど皆さんと同じ年頃でした。
最終号の裏表紙には、早朝の田舎道の写真が載っていました。冒険好きなら、ヒッチハイクをするときに目にするような光景です。
写真の下に、こんな言葉がありました。「ハングリーであれ、愚かであれ」。それは、読者へのお別れのメッセージでした。
ハングリーであれ、愚かであれ。私はこれまで、いつもそうありたいと願ってきました。そしていま、大学を卒業し、新しい人生に向かって踏み出す皆さんにも、そうあってほしいと願っています。
ハングリーであれ、愚かであれ。
ありがとうございました。