コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は6万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し、現在3.5万部。遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。

2000万円が非課税になる「おしどり贈与」に注意! 損をする可能性もあります!Photo: Adobe Stock

「おしどり贈与の特例」とは?

 本日は「おしどり贈与の特例」についてお話しします。

 この特例は、婚姻20年以上の夫婦の間であれば、既にある自宅の権利2000万円分、もしくは新たに自宅を買う場合の購入費2000万円を贈与しても非課税になるという制度です。

 2000万円を超える部分は、通常の贈与税の計算通り110万円までが非課税となり、それを超える部分は贈与税が課税されます。

 2000万円も贈与税が非課税になるなんて、一見とてもお得そうに見えますよね。しかし、残念ながら、この特例は税金的には得するどころか、損する可能性のほうが高いのです。理由は3つあります。

3つの注意点とは?

 第一の理由は、そもそも夫婦間の相続であれば、最低でも1億6000万円まで無税となる配偶者の税額軽減があるためです。この制度によって、そもそも夫婦の間で相続税は発生しないケースがほとんどです。そのため、夫婦間で贈与税を2000万円非課税にしても、メリットがあまりないのです。

 次に、小規模宅地等の特例は、相続時には使えますが、贈与時には使えないという論点があります。亡くなった方の自宅は、配偶者か同居していた親族が相続すると8割引きの評価額で相続税を計算することができます。そのため、自宅(土地)を2000万円分無税で贈与したとしても、相続時における評価額を基準に考えると、実質的に400万円分(8割引き後)しか減らせません(小規模宅地等の特例は土地だけの話なので、自宅建物にこの特例を使えば、もっと大きく減らすことができます)。

 最後に、得しないどころか、損をしてしまう可能性についてお話しします。自宅の権利2000万円分を贈与する場合、確かに贈与税は非課税になるのですが、登録免許税と不動産取得税という別の税金が課税されます。

 ちなみに、不動産の贈与ではなく相続であれば、登録免許税は贈与時の5分の1、不動産取得税は非課税です。不動産を贈与する場合には、相続時よりもコストが割高にかかってしまうのです。また、司法書士への手数料も、贈与時に1回、相続時に1回と二重でかかります。

 この特例は税金面だけを考えるとメリットが少なく、コストが大きいため節税にはあまり向きません。

 ただ、相続トラブルを防ぐという意味では有効です。