100本ノック夏#8Photo:123RF

伊藤忠商事が連結純利益で首位を奪還した2021年3月期の商社業界。実は伊藤忠は日本基準の単体決算では赤字に陥っている。特集『決算書100本ノック! 2021夏』(全10回)の#8では、会計基準の違いが生んだ“珍事”を解明する。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

「週刊ダイヤモンド」2021年6月26日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

IFRSで商社業界の新王者となった伊藤忠
単体決算では16年ぶり赤字の不思議

「どうも分かりにくい。キツネにつままれたかのようだ」。財閥系商社の社員がそう首をひねるのが、伊藤忠商事の決算についてである。

 伊藤忠は2021年3月期、連結純利益4014億円を計上し、3355億円の三井物産、2253億円の丸紅、1726億円の三菱商事を抑えて業界首位に立った。新型コロナウイルスの感染拡大で他商社が苦戦を強いられた中、生活消費関連に強い伊藤忠は純利益の落ち込みを前期比19.9%減にとどめたのが主な勝因だ。

 ただし、これはあくまで国際会計基準(IFRS)の損益計算書(PL)上の成績である。

 基礎営業キャッシュフロー(CF)で見ると、伊藤忠の5740億円に対し、三井物産6581億円、三菱商事6252億円。キャッシュ創出力においては依然、三菱・三井に及ばない。

 さらに日本基準の単体決算で見ると、冒頭の社員がつぶやく「分かりにくい」現象が起きる。実は伊藤忠は21年3月期、713億円の赤字に陥っているのだ。単体決算の赤字は04年3月期以来という。

 その最大の理由は、伊藤忠が15年に投資した中国中信集団(CITIC)の2427億円に上る巨額減損にある。一方、IFRSでは、同じ21年3月期にCITICで725億円の取り込み利益を計上している。

 日本の会計基準では減損なのにIFRSでは利益計上という“カラクリ”の秘密は一体何か。それを理解するには、日本基準とIFRSの違いを押さえる必要がある。