2007年の郵政民営化前後には、おびただしい数の大企業が日本郵政グループに群がった。日本郵政グループが持つ、金融資産、不動産、既得権益が、企業にとって商売のタネとなったからだ。そして今、最後の “甘い汁”が絞り出されようとしている。ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式売却益を原資に行われる巨額投資だ。特集『郵政消滅』(全15回)の#5では、日本郵政の周囲にうごめく企業の思惑に迫った。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
郵政再建への最後の大勝負
1兆円規模のIT・M&A投資に群がる企業
今となっては知る人ぞ知る話だが、郵政民営化において、トヨタ自動車は鍵を握る会社の一つだった。郵便局をトヨタ生産方式で効率化するなど事業面の支援を行ったのだが、より重要なのは、奥田碩トヨタ元会長が日本郵政のトップ人事に果たした役割だ。
奥田氏は日本経済団体連合会会長を務めていた2005年、日本郵政のトップ人事について、「金融機関のトップは利害関係があるので、資格がないのではないか」と述べたことがあった。
奥田氏の念頭にあったのは、その発言の直後に発表された三井住友銀行元頭取・西川善文氏が日本郵政初代社長に就任するという人事だった。
「郵便貯金は民業を圧迫している」と批判してきた西川氏が日本郵政のトップに立てば利益相反が疑われる。奥田氏はそれを懸念したわけだが、結果的に、その“嫌な予感”は見事に的中してしまう。
西川氏は民主党への政権交代後の09年に、事実上、更迭される。その当時、日本郵政の役員人事を決める指名委員会委員長を務めていたのが奥田氏だった。産業界では西川氏の続投を支持する声が根強かったが、奥田氏は社長交代を求める鳩山由紀夫内閣の意向をくんだとされた。
日本郵政はその出自や成り立ちから、政財官のいずれともつながりが深い。そうした背景から、幹部人事と同様、他社との提携・投資を進めるか否かの判断にも政治的要素が挟み込まれる。
ビジネス優先、経済合理性優先で経営判断がなされるわけではないので、政治的要素が災いして提携・投資が失敗に終わることも珍しくない。
日本郵政は25年度年までにITや不動産、M&A(企業の合併・買収)を含む新規ビジネスに総額1.5兆~2兆円を投資する方針を表明している。ここからは、過去に頓挫した提携・投資案件を振り返ることで、将来戦略の急所を浮き彫りにしてゆく。