日本郵政が楽天グループに1500億円を出資した“ビッグネームの提携”は、矛盾に満ちている。携帯電話の通信ネットワークを整備するための投資負担に苦しむ楽天を、日本郵政が救済したという構図だ。日本郵政の“持ち出し”はさらに増えそうな雲行きであり、しかも、日本郵政が得られるメリットはあまりにも小さい。特集『郵政消滅』(全15回)の#9では、日本郵政・楽天タッグの矛盾を突く。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
楽天・米シリコンバレー人材が挑む
40万人組織のDXという「難しい仕事」
2020年夏、米カリフォルニア州サンマテオ。世界のIT企業の聖地「シリコンバレー」の北限にあたるこの地にオフィスを構える楽天グループの米国法人「Rakuten USA」で、大きな転機があった。米アマゾン・ドット・コムに対抗して現地で運営していたeコマース(EC)「ラクテン・ドット・コム」の仮想商店街サイトをひっそりと閉鎖したのだ。
楽天は10年6月に「世界27カ国・地域への進出」を掲げて、海外事業の急拡大を図ったが、その計画は16年に巨額減損を計上したことで頓挫した。以降、欧州やアジアのショッピングモールを次々に閉鎖。これで米国の仮想商店街サイトからも撤退したことになり、楽天の海外戦略の失敗を決定付けることになった。
日本郵政のCDO(最高デジタル責任者)を務める飯田恭久氏は、この事態を苦々しく思っていたに違いない。06年に楽天に入社した飯田氏は、一貫して米国事業の拡大に関わり、Rakuten USAのトップに上り詰めたが、楽天が実質的に海外から撤収するのを機に19年7月に帰国していた。
その飯田氏が急転直下でデジタル化に遅れた旧国営企業に送り込まれたのは21年4月のこと。日本郵政と楽天が1500億円の資本・業務提携を結んだ3月12日からわずか半月後に、日本郵政の執行役に転じている。
7月1日には、日本郵政グループのデジタル化を推進する新会社「JPデジタル」のCEO(最高経営責任者)に就任したが、急ごしらえでつくられた組織は、日本郵政の社員を中心にわずか30人の陣容だ。この小さな会社が、社員40万人の老朽化した元国営企業のデジタル化を一挙に担うというのだから、無理筋にも程がある。
楽天の海外事業で挫折を味わったシリコンバレー人材の飯田氏が、またしても難しい役割を任されたことだけは間違いない。前途多難な新会社の船出は、日本郵政・楽天タッグの“矛盾”を象徴しているかのようである。