ジャーナリスト
1967年東京都生まれ。「日経ビジネス」記者・ニューヨーク特派員、日本経済新聞編集委員を経て2019年に独立、会員誌「Voice of Souls」を創刊。著書に『つなぐ時計 吉祥寺に生まれたメーカーKnotの軌跡』(新潮社)、『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』(日本経済新聞出版)、『テレビはなぜ、つまらなくなったのか』(日経BP)、『真説バブル』(日経BP、共著)がある。
「絶対に」「必ず」と
断定する本はほぼアウト!
――がん専門医が書いた本や、がん治療体験者が書いた本などのがん関連書の中から、信頼できる本を選ぶときの基準はあるのでしょうか。
金田 まず、その著者が何を目的に本を書いているのかを考えましょう。患者や医師に何かを伝えたいのか、自分の体験をシェアしたいのか。もちろん、トンデモ本も「患者に伝えたい」という体裁はとっています。しかし特定の治療法に絞って、その「奇跡的な効果」ばかりを書いている本は、現実的かどうかをよく見極めるべきですよね。
そこに出てくる患者や医療者は実在するのか。病気や回復を確認できる情報やデータはあるのか。そこが曖昧な本は、私は読みません。そもそも、万人に対してそんなに劇的な効果が出るなら、医療保険の適用を受けてほしいですよね。
医療全般に言えますが、がん治療に「100%治癒する正解」はありません。「絶対に」「必ず」と断定する本ほど危険ですね。誰にでも効果があるかのように書いている本は、ほぼアウトだと思ってもらって構いません。
――金田さんはジャーナリストとして、これまでは企業不祥事のノンフィクションなども数多く手がけてきました。7ヵ月間のがん闘病記を書くうえで、ジャーナリストとしての活動が生かされた部分も多かったのではないでしょうか。
金田 それはたくさんあります。まず、相手と話をするだけで、大体どういう性格かが分かります。毎日、何人もの相手を取材するような生活を30年以上続けてきましたから、人を見る目には自信がある。組織も、その建物に入った瞬間から感じ取れるものがありますし、最初の感触と実態が大きく異なることは、あまりありません。そのような「記者のカン」は間違いなくありますね。
職業柄、記録することも習慣になっているので、一日中ICレコーダーを回しているような感じです。写真も動画も、iPhoneでガンガン撮って残しています。もちろん、メモもとっていて、普段はA5サイズのルーズリーフに書き込んで、テーマ別に整理してファイルしています。iPhone、iPad、パソコンで残したテキストメモの記録も豊富に残っているので、あとで文章化するうえでも役立ちました。
――情報収集も徹底していますよね。
金田 今まで、経済、社会問題、企業不正のテーマを扱うことが多かったので、相手がホイホイと簡単には情報をくれません。そのため、どうやって情報をかき集めればいいか日々考え続けてきました。
今回も、がん治療に関するエビデンスつきのネット情報、大学教授の論文、信頼する友人・知人から紹介された医師の著書など、大量の情報を読み込んで、あたりをつけて、詳細な事実を聞ける人に話を聞きました。東大卒の医療ジャーナリストの星良孝さんに相談できたことも心強かったですね。医療の大きな流れや、病院別の傾向の違いなどもアドバイスしてもらいました。細かい情報はそれぞれの専門医を紹介してもらったり、紹介の紹介でさまざまな専門情報を集めたりすることができました。