アリババやテンセントなど
IT先端企業への締め付け

 1989年の天安門事件の発生以降、中国経済は大方の経済専門家の予想と異なり、共産党政権による一党独裁の下で成長を遂げてきた。90年代からリーマンショックの発生まで、共産党政権は海外企業を国内に誘致して沿海部で工業化を進めた。そこに農村部からの安価かつ豊富な労働力の供給が加わり、中国は「世界の工場」としての地位を確立して輸出主導で高い経済成長を遂げた。

 リーマンショック後、中国共産党政権は輸出に代わる成長のエンジンとして投資を重視した。ただし、基本的に国有・国営企業などには在庫管理の概念が十分に浸透しておらず、積極的なインフラ投資などは国内での過剰生産能力を生み、債務問題が深刻化している。

 2013年に発足した習近平政権は、経済構造の転換を目指してIT先端分野に生産要素を再配分している。その政策はアリババやテンセントなど中国IT先端企業の成長を支え、フィンテックやライドシェアなど新しい需要を生み出した。

 その一方で、アリババグループやアント・グループの創業者であるジャック・マー氏のように、「共産党政権の規制強化が企業の成長を妨げる」と批判する者も出始めた。批判に対して共産党指導部は締め付けを強化し、アント・グループの上海と香港での新規上場は中止された。そうしたケースを踏まえると、ディディのニューヨーク上場には、中国当局の規制からの逃避としての側面があったようにさえ映る。

 共産党政権にとって、企業経営者からの批判や海外上場による規制すり抜けの画策は、求心力の低下要因といえる。それがIPO後のディディへの締め付け強化につながった。一部ではディディが株式の非公開化を検討していると報道されるなど、中国株を取り巻く政策リスクは上昇している。