累計15万部を超えた法律入門書のベストセラー・シリーズ『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』の著者が最も身近なのに、もっともややこしい法律の問題にわかりやすく答えます。数ある法律の中でも、資格試験や仕事上の関係で勉強する人の数が多い「民法」が今回のテーマ。民法は、身近なテーマを扱う法律。知っていそうで知らない身近な様々なものが、実は民法で明確にきめられています。正確な年齢の数え方もその一つ。シリーズ待望の新刊『元法制局キャリアが教える 民法を読む技術・学ぶ技術』を書いた著者、元法制局キャリアの吉田利宏さんが教えてくれます。

法律を読む技術・学ぶ技術Photo: Adobe Stock

法律上正しい期間の計算の仕方

 民法は第1編第6章(138条~143条)に期間の計算のルールが定められています。法令や裁判上の命令に別なルールが定められているときや、特に別段の定めをしたときならともかく、民法に定める期間の計算のルールが及びます。いわば、期間計算のジャパンスタンダードというわけです。

期間計算の方法 その1
 時間で期間を定めるとき、たとえば「5時から3時間」といった場合には、当然、その期間は5時からスタートします。ところが、日、週、月または年によって期間を定めたときは、少し違います。140条にあるように、初日は参入せずに翌日から起算するのです。

第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

 これを初日不算入の原則といいます。たとえば、5月1日に自転車の貸出契約(使用貸借契約)を結んで、「今日(契約日)から5日間お貸しします」という場合には、5日間のカウントは、5月2日から始めることになります。141条には「期間は、その末日の終了をもって満了する」とあるのですから、5月6日の午後12時に満了することになります。図で示すとこのような感じです。

【法律入門書のベストセラー著者が教える】知っていそうで知らない、正確な年齢の数え方

 もし、初日から起算させたい場合には「から起算して」という表現を使います。「今日(契約日)から起算して5日間」といえばその期間は次のようになります。

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 さて、さらに問題です。「明日から5日間」という場合には、満了日はいつでしょうか。まず、起算日が問題になります。初日不算入の原則からは「明日の翌日」、つまり明後日から起算するように思うかもしれませんが、もう一度、140条の条文を読んでみてください。

「ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない」とあります。明日はまだ来ていない日ですから午前零時から始まる日です。この場合、起算日は明日になるのです。民法が定める初日不算入の原則は債務を負う者が不利にならないように1日に満たない日数をカットして考えようとするものです。ですから、丸々1日があるならあえて初日不算入にしなくてもいいということになります。

 少し「期限」の話をします。136条1項には「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する」とあります。たとえば「4月1日になったら返還する」としてバイクを借りた場合には、債務者(借りた方)は4月1日までは返さなくてもいいわけです。このように期限は債務者のためにあるとされ、その上で期限の利益を放棄できるよう定めています(同条2項)。民法が、債務者びいきの規定を設けているという意味では、初日不算入のルールも同じです。これも民法が持っている公平の感覚の表れなのです。

期間計算の方法 その2
 少し複雑なのが週、月、年の途中から期間を起算するときです。この場合には「起算日に応当する日の前日に満了する」とされています(143条2項)。たとえば、「5月1日に契約して、今日から2週間お貸しします」ということであれば、満了日はいつになるでしょう。

 まず起算日は5月2日です。その2週間後の応当日は5月16日になるでしょう。その前日に満了するというのは、5月15日の午後12時に満了することを意味します。

(暦による期間の計算)
第143条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
【法律入門書のベストセラー著者が教える】知っていそうで知らない、正確な年齢の数え方

 もし、満了日にお店が休みだったらどうでしょうか? その場合についても民法は規定しています。満了日とされる日が休日にぶつかり、その日が取引をしない日なら、翌日が満了日となります。

第142条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(略)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。

それでは正確な年齢の数え方はどうなる?
 期間計算は初日不算入が原則だといったばかりなのですが、年齢に関しては以下の法律があり、初日参入を義務づけています。

明治35年法律第50号(年齢計算ニ関スル法律)
1 年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
2・3 略

 この古い法律が「いたずら」を働くことがあります。たとえば、4月1日生まれの人がひとつ年齢を重ねるのはいつかといえば、3月31日の午後12時ということになります。厳密にいえば、ひとつ年齢を重ねる日は3月31日なのです。学年で一番早い誕生日の子が4月2日生まれだったのも、この法律のいたずらと聞けば納得がいくはずです。