管理職には、その立場にあるというだけで、会社の経営戦略に関する情報、新しい技術の情報、競合の情報、重要顧客の動向、政府関係の規制に関する情報など、ありとあらゆる情報が会社から社内メールやその他の手段で提供される。

「使える上司」は、その中から自分の部署の特定のメンバーに関係しそうな情報を取り出し、「最近、○○社がこんな新商品を出す計画があるから、先回りして顧客対応をしておくように」といった適切な指示とともにその情報を流す。一方、「使えない上司」は、自分に送られた情報を無差別に部下全員に全部転送するか、何もせず放置する、のどちらかである。情報が適切なタイミングで適切な人に伝わることが価値を生み出すことを知らないのである。情報が価値を生むメカニズムを知らない上司は、間違いなく「使えない上司」である。

2.企画推進の方法論の欠如:
小さな成功事例の応用や横展開などで新規企画を進められない

 残念なことに、ほとんどの会社において、新しい企画を社内で推進するにはどうすればよいかという基本的な方法論が確立していない。ここで言う企画推進の能力とは、新規事業開発の本で説かれる立派な事業計画書を作って偉い人の前でプレゼンすることではない。要は小さな成功事例の応用である。

 新しい価値の可能性を見つけ、その実現のために社内の経営資源(主に人)を調達し、実現して成功に導き、小さな成果を打ち立て、その成果を例に、同様の価値が他の顧客向けにも実現可能であることを上司や他の関係各位に伝達し、プロジェクトに対する期待感を高め、その期待感でさらに多くの経営資源を獲得し、それによって実行して成功し成果を生み……という、小さな成果をもとにした、「期待感」→「より大きな成果」→「さらに大きな期待感」→「さらに大きな成果」へとつなげる雪だるま式企画推進・増幅の方法論のことである。

 この実現のためには、価値の発見力、仮説構築力、資源獲得力、適切な目標設定力、成功を周りに宣伝する能力、上層部からの期待の獲得力、などが必要である。このような方法論は、成長局面にある企業では必ず一定数の管理職が経験し、「使える上司」としてその能力を身に付けていたものなのだが、その保有者が少なくなってしまっている。

 部下が新しい価値の可能性を見つけても、上司が企画推進・増幅力を身につけていなければ、一つの顧客に一つの価値を提供するだけで終わってしまう。部下が最初からそれらの能力を持っていることはきわめてまれである。せっかくチャンスがありながら、上司のせいで価値を増幅させられないとなると、やる気のある部下からは、「使えない上司」に見えてしまう。

3.上通性の欠如:
上層部につなぐ力がない

 使えない上司の最たるものが、上通性のない上司である。上通性とは自分よりも上に対して、きちんと意見を言い、獲得すべきものをしっかりと獲得してくることである。たとえば、目標達成のための必要な予算を獲得すること、仕事をしていくうえで絶対に必要なルールを作ること、こうしたことを実現するには、上司の上司にかけあって認めさせなくてはならない。

 当然、上司の上司のところには、他部署からも次々と要望が上がってきているから、それに打ち勝てる上司でなければ、部下にとっては「使えない」。使える上司であれば、自部署の要望がいかに必要であるか、説得力をもってプレゼンテーションできるはずである。

 しかし、「使えない上司」は上司の上司から相手にされないので、部下は自分がプレゼンしたほうが、通る可能性が高いのではないかと思ってしまう。現場の担当者がプレゼンすることを許す会社もあるが、多くの場合、管理職でなければ、意思決定の会議に出席する権限さえないことも多い。たまたま部下の同席が認められた会議で、上司が説得力のないプレゼンをして全員から無視され、せっかく提出した企画が何ら進展しない状況を味わうと、部下は「うちの上司は本当に使えない」と嘆くことになる。