他人がつくり上げた「自分らしさ」という型を探していないか?
──なるほど……。「あるがままに生きよう」という考え方にこだわること自体が、自分を窮屈にしている可能性があるんですね。
バク:そもそも、あなたがほしがっている「あるがままの自分」って、本当のあなたなんですか? と思うんですよ。
たとえば、自分の好きなように生きよう! と思って、好きな髪型にするとしましょう。女性だけど、ものすごく短いツーブロック(トップの長さを残しつつサイドなどを刈り上げる)にしてみよう、とか。そうやって、周りの意見なんて気にせず、他の人とは違うスタイルに挑戦してみる。そのこと自体はとてもいいことだと思うんです。
でも、ふつうの人とは違う、突飛な行動をとったら、絶対に周りから何かしら言われてしまうんですよ。そのときになんと言われても自分をつらぬけるほど、意思が強い人ってなかなかいないじゃないですか。
それに、自分が追い求めている「自分らしさ」は、有名人やインフルエンサーのSNSに影響されてつくられた虚像かもしれないですよね。
──そうか、そもそも「ありのままの自分」として思い浮かべる像そのものが、憧れでつくられてしまっているかもしれないんですね。
バク:自覚されていない人が多いんですが、「自分らしさ」には絶対に憧れが入ってるんですよ。
患者さんにもそういう人は多くて。「あなたには〇〇の仕事が向いてそうだから、チャレンジしてみたら?」と就労支援をすることがあるんです。でもそうアドバイスしても、「嫌だ」と言われるんですよね。主治医の私の視点からすると、とても向いている仕事なのに。
それで、「なら、どんな仕事があなたらしいと思う?」「あなたらしさって何だと思う?」と聞くと、「ライターになりたい」と言うんですよ。
──ライターですか。なぜ、そう思われるのでしょう?
バク:お化粧してネイルして、オープンな感じのオフィスかカフェで、コーヒーを飲みながらMacBookひとつで仕事したい、とおっしゃるんですね。具体的に何を生産しているのかはわからないけど、そういうイメージに憧れがあるようで。
つまり、「自分らしい生き方」を追い求めているように見えて、その実、他人やSNSがつくりあげた「自分らしさ」という型を探してしまっているに過ぎないんですよ。
結局のところ、ほとんどの人は「自分が本当にやりたいこと」なんて見つけられないんです。
だからこそ、手っ取り早い型を探したがる。そういうときにパッと目に入るのが、自分と年齢や学歴がそこそこ近くて、フォロワーがそこそこいるSNS発信者のライフスタイルなんだと思います。