“激安価格”実現の裏で
実は中国政府の補助金に頼りきり

 というのも、中国政府は国策として、ウーリンなどの電動化ビジネスを手掛ける企業に潤沢な助成金を供給している。宏光MINIの製造コストは、この助成金がなければ赤字であり、そもそもビジネスモデルとして破綻しているのだ。

 中国はWTO(世界貿易機関)に加盟しており、企業への助成金に関する報告義務を負っているはずだが、実際はバッテリー関連に限らず、その義務をほぼ果たしていないのが実態なのである。

「EVを国の基幹産業にして世界シェアを上げるために、中国はバッテリー企業や自動車メーカーにどんどん資金を投下している。おそらくウーリンも、宏光MINIの電動化関連の機構をタダ同然で作っているはずだ」と、日本のバッテリーメーカー関係者は指摘する。

 日本国内の大手サプライヤー社員も、「EVバッテリーの原価は、低スペックなものでも決して安くない。宏光MINIの中身を見たわけではないが、低性能のセルを使い、バッテリーを長持ちさせる温度コントロールシステムなどを全部省いたとしても、バッテリーだけで50万円程度になるだろう」と指摘する。

 このように、宏光MINIの「激安価格」は、決して企業努力のみによって実現されたわけではない。ウーリンが中国政府に“おんぶに抱っこ”で頼りきった揚げ句の産物なのである。

 このような経緯で作られた激安EVが月3万台も売れれば、当然、中国による助成金はかさみ、国の財政を圧迫する。宏光MINIが国外進出した際は輸出コストもかかり、価格を維持するには補助金の増額は必至だ。

 さらに現在の中国では“二匹目のどじょう”を狙ってミニEV市場への新規参入が相次いでおり、「雷丁汽車」といったメーカーも50万円前後のモデルを発表している。この裏側でも、中国が自腹を切って莫大な補助金を動かしていることは想像に難くない。

 ということは、宏光MINIや他社のモデルが売れれば売れるほど、中国の財政状態はじわじわ苦しくなっていくのだ。一方で、各社がミニEV事業において自前で利益を生む体質は育たないままだ。

 こうした状況下で、もし中国が「キリがない」と判断し、各社への支援を止めてしまうと、ウーリンや他社はミニEVを値上げせざるを得ず、「超激安」という看板は失われる。事業としても一気に採算が取れなくなり、中国メーカーへの国際的な注目度も下がるだろう。

 つまり、中国と中国メーカーのやり方は、スポーツにおけるドーピングのように、自らの身体を痛めつけると分かっていながら、目先の利益のために“投薬”を続けているのと同じだ。

 中国が世界屈指の経済大国に君臨しているとはいえ、このビジネスはいつか立ち行かなくなる危険性をはらんでいる。これが、日本の業界関係者が指摘する“弱点”である。

 だが、宏光MINIのウイークポイントはこれだけではない。冒頭でスペックを褒めたにもかかわらず手のひらを返すようだが、実はこのクルマ、販売価格を下げるために、安全保護システムをほとんど装備していないのである。