世界各国に「EVシフト」の潮流が押し寄せる中、注目を集めているのが、中国の自動車メーカー・ウーリン製の「宏光(ホンガン)MINI EV」だ。このモデルの価格は日本円換算で約50万円と、300万~400万円台が主流のEVとしては破格である。まだ本格的な輸出は始まっていないが、メディアなどでは「日本に入ってきた場合は国産自動車メーカーにとって脅威となり、シェアを奪うのでは」と恐れる論調が散見されるようになった。だが、自動車業界からの評価は必ずしも高くなく、“弱点”を指摘する人も出てきている。一体どういうことか。(ジャーナリスト 井元康一郎)

中国で爆売れ中の“50万円EV”
その実力は本物か

中国製50万円EVが「日本の脅威になる」は本当か?Photo:VCG/gettyimages

 欧州委員会が「2035年にエンジン車・ハイブリッドカー禁止」を含む政策案を公表するなど、世界的なEV(電気自動車)シフトが加速する中、自動車業界で大いに注目を集めているのが中国産の“超激安EV”である。

 中でも驚くほど安いのが、中国の自動車メーカー、上汽通用五菱汽車(ウーリン)が昨夏に売り出した「宏光(ホンガン)MINI」だ。価格は日本円換算で約50万円と、300万~400万円台が主流のEVとしては破格である。

 これが電動ゴルフカートに毛が生えたような乗り物であったなら、別段驚くことはない。

 だが宏光MINIは、簡素ながらも自動車としての機能は一人前だ。車体の長さは2.92mと日本の軽自動車より50cm近く短いが、荷物を載せなければ4人が乗車可能で、2人乗りのミニカーとは一線を画している。

 また、宏光MINIの最高速度は100km/h。航続距離の公称値は、バッテリー容量が9.3kWhの「通常版」が120km、13.9kWhの「長距離版」が170kmと、近場の買い物などには十分なスペックだ。

 この性能の4人乗りEVを激安価格でリリースしたインパクトは大きく、中国では月に3万台ほど売れるスマッシュヒットとなっている。この売れ行きは米テスラ車に勝るとも劣らない勢いである。

 ウーリンは、人気の要因である低価格を実現した理由について、(1)機能や装備を都市走行に必要最低限の水準に絞り込んだこと、(2)通常のEVより低コストかつ低スペックのバッテリーを使っていること――を挙げている。

 このように、安さと使い勝手の良さで支持を集める宏光MINIは、中国以外でも注目度が急上昇中だ。

 まだ宏光MINIの大々的な輸出は始まっていないものの、日本のメディアやネットでは「日本に入ってきた場合は国産自動車メーカーにとって脅威となり、そのシェアを奪う“侵略者”になり得るのではないか」といった論調も散見されるようになった。

 しかし、だ。高評価する声がある半面、日本の自動車業界関係者からは宏光MINIの“弱点”を指摘する声も上がっている。このクルマが必ずしも、日本メーカーを脅かすとは限らないのというのが彼らの見方のようだ。