野田氏の登場で混戦、
第1回投票で総裁選に決着はつくのか

 野田氏は、過去3度総裁選への出馬を模索したが、今回初めて推薦人20人を確保して立候補できた。高市氏と同様に、閣僚・党役員の経験が豊富で、実務能力が高い。女性・マイノリティーなどの人権問題に高い見識を持つ政治家である。

 しかし、私は、野田氏が総裁選のたびに推薦人の確保に苦戦するのをみて、総裁選以外の時期に、どれだけ仲間づくりに汗をかいているのか疑問を感じてきた。首相の座を目指すのなら、一人で実務をこなすだけでは不十分だ。また、誰かに担がれて首相になろうというのなら、「担ぐ神輿(みこし)は軽い方がいい」という長老たちの操り人形になるだけだ(第252回)。

 総裁選の焦点は、国民人気が高い「こいしかわ」(小泉・石破・河野連合)が党員票を圧倒的に獲得し、河野氏が第1回投票で過半数を獲得し、勝利を決めてしまうかどうかだ。

 第1回投票で圧倒的に党員票を獲得し、地滑り的勝利を収めた事例としては、2001年総裁選の小泉純一郎氏がある。小泉氏は「自民党をぶっ壊す」というフレーズを連発し、圧倒的な迫力があった。また、「郵政民営化」という他の誰も主張しないインパクト絶大な政策があった。小泉氏を「変人」と名付けた田中真紀子氏という強烈な応援団も得ていた。

自民党総裁選は混戦に、候補者4人が持つ「明らかな弱点」とは本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 一方、河野氏には「これで日本が変わるかもしれない」と誰もが思うような強烈なインパクトのある政策はない。また、保守派に遠慮して持論を下げたのは迫力に欠ける。石破茂氏、小泉進次郎氏という応援団にも勢いがない。小泉純一郎氏のようなブームを起こせるとは思えない。

 また、小泉氏の時は、森喜朗首相(当時)が失言を乱発し、「小泉待望論」がわき上がった。だが。河野氏の対立候補である岸田氏は少々頼りないが、穏健で安定感がある。

 河野氏ほどの国民人気はなくても、無難に総選挙を戦えるのではないかと考える自民党議員が少なくないと思う。「河野ブーム」はそれほど必要とされていない。

 さらに、野田氏の立候補で、党員票が分散する可能性も出てきた。それでも、河野氏が第1回投票で1位になる可能性は高いかもしれないが、地滑り的大勝利とはいかず、僅差となるのではないか。

 決選投票になれば、岸田氏が有利な立場にあるのは間違いない。「派閥の力学」では、岸田支持が多数を占めているからだ。国会議員は、岸田派が46人。高市氏支持の安倍前首相が「事実上のオーナー」である細田派96人の多数は岸田支持、河野氏の派閥である麻生派53人も、多くは岸田支持に回るとみられる。そして、決選投票では、1回目の細田派の高市票が、ほぼ岸田氏に回ると思われる。

 河野氏が首相になりたければ、保守派に配慮してはいけない。むしろ持論は前面に出すことだ。そして、国民の目が覚めるような強烈なインパクトのある政策を打ち出す。単に人気があるというだけでなく「河野ブーム」を創り出すために、もっと頭を絞るべきだろう。