私たちの生活には、いろいろなところで神様の存在を感じられることがあります。身近なところでは、「初詣」。受験生なら「合格祈願」。ビジネスパーソンなら「商売繁盛」。名だたる経営者も、日本の歴史をつくった戦国大名や歴代天皇も、神様を信仰し、力を借りて成功を収めてきました。漫画やゲームのキャラクター名でつかわれていることもあります。もしかしたら、ヒットの要因は、神様のご利益かもしれませんね。
日本には、八百万(やおよろず)の神様がいると言われています。膨大な神様の中から100項目にわたって紹介する新刊『最強の神様100』には、古代から現代まで、めちゃくちゃ力のある神様が登場します。最強クラスの神様なので、ご利益も多種多様。
今回紹介する神様は、トヨタマヒメ。龍宮の乙姫です。前回登場した浦島太郎の妻です。ご利益も同じで、「縁結び」や「安産」のご利益があります。そして、初代天皇の祖母でもあるのです。

「安産」や「縁結び」の神様になった龍宮の乙姫Photo: Adobe Stock

政権交代を引き起こす龍宮の乙姫

「安産」や「縁結び」の神様になった龍宮の乙姫トヨタマヒメ
イラスト/朝倉千夏

 前回のホオリが結婚したのは、龍宮の王ワタツミの娘トヨタマヒメ(古事記:豊玉毘売、日本書紀:豊玉姫)でした。私たちもよく知っている乙姫様です。「タマ」は神様の御霊、神霊のことで、神様とやりとりする巫女だったと推測されています。

 ホオリが陸に戻るとき、トヨタマヒメは妊娠していることを告げ「産屋を建てて待っていて」と言いました。その後、龍宮から陸にやってきたトヨタマヒメは産屋に入り、「絶対に中をのぞかないように」とホオリに告げます。当然(?)、我慢できずにこっそり中をのぞくホオリ。トヨタマヒメの姿が龍(ワニ、サメ説も……)なのを見てしまい、恥ずかしさのあまりトヨタマヒメは海に帰ります。生まれた子は、トヨタマヒメの妹タマヨリヒメが残って養育しました。

「妹が姉の子を養育ってどういうこと?」と謎ですが、ホオリの父ニニギが経験したように、ひとりの男性のもとに姉妹2人で来たわけですね。トヨタマヒメ姉妹とホオリの関係構築は成功して日本建国につながり、トヨタマヒメの孫は初代天皇に即位します。

 以上の神話から、トヨタマヒメのご利益は、「安産」「縁結び」「外国など異文化との交流」などが言われています。個人的に思うには、頼りないホオリをしっかりさせて、立派な墓の残る九州の王にした「元祖あげまん」ではないでしょうか。

 トヨタマヒメを祭る神社は九州に多く、薩摩藩の島津氏を代表に、勇猛な男たちから崇敬されました。鹿児島県南九州市の知覧(ちらん)はトヨタマヒメが治めた伝承がある縁の地で、知覧の豊玉姫神社は、トヨタマヒメを祭る代表的神社です。

 薩摩藩は幕末に明治維新を引き起こしました。日本建国の鍵となったトヨタマヒメは政権交代を起こすご利益もあるようです。私もトヨタマヒメを意識するときは、ごく狭い人間関係の中ですが、力関係が変化します。マウンティングされていたのが、逆にこちらが有利になるような、小さい政権交代が起こりますよ。

【主なご利益】良縁成就、心願成就、安産祈願

【こんな人にオススメ!】
力関係を逆転させたい人。土壇場に追い込まれている人

*本原稿は、八木龍平著『最強の神様100』からの抜粋し、再編集したものです。