私たちの生活には、いろいろなところで神様の存在を感じられることがあります。身近なところでは、「初詣」。受験生なら「合格祈願」。ビジネスパーソンなら「商売繁盛」。名だたる経営者も、日本の歴史をつくった戦国大名や歴代天皇も、神様を信仰し、力を借りて成功を収めてきました。漫画やゲームのキャラクター名でつかわれていることもあります。もしかしたら、ヒットの要因は、神様のご利益かもしれませんね。
日本には、八百万(やおよろず)の神様がいると言われています。膨大な神様の中から100項目にわたって紹介する新刊『最強の神様100』には、古代から現代まで、めちゃくちゃ力のある神様が登場します。最強クラスの神様なので、ご利益も多種多様。
今回は、「お稲荷さんは、なぜ怖がられるのか?」についての書き下ろしになります。

お稲荷さんは、なぜ怖がられるのか?Photo: Adobe Stock

お米の神から変化したお稲荷さん

 神社の本を出してから、よく質問される事があります。

「わたし、お稲荷さん、苦手なのですが……」

 食べるお稲荷さんじゃありません。「稲荷神社の神様」のことです。

 何となくそのお気持ち、感覚はわかります。怖い逸話が、まことしやかに語られることもありますし……。もちろん気にならない人、お稲荷さんが大好きな方もたくさんいます。

 そもそも、お稲荷さんとは、どういう神様でしょうか?

 ずばり、「お米の神様」です。稲荷の“稲”の神様ですね。

 ご神名はウカノミタマ。『古事記』では宇迦之御魂神、『日本書紀』では倉稲魂命と表記します。

 伊勢神宮では主祭神アマテラス(天照大御神)にささげるお米をつくる水田がありますが、その水田の神様がウカノミタマです。

 稲の神様と聞いて、怖いと思う人はいますか? 日本に住む人の多くが主食にしている、あの「米(こめ)」の神様です。

 なぜ、お米の神様が苦手と感じる人が、少なからずいるのでしょうか。

 それは「お米の神から、お金の神に変化したから」です。

 古代より、お米は現代におけるお金の役割を果たしていました。戦国時代や江戸時代、武士のお給料は「◯万石」のようにお米で表され、平安時代より国民は税金として年貢米を徴収されていました。江戸時代まで「お米」は「消費期限付き通貨」だったのです。

 同時に、商人の台頭により「お金そのもの」の重要性が高まります。経済の血液が、消費期限付き通貨である「お米」から、消費期限のない通貨である「お金」に徐々にシフトしたわけですね。

 その経済的シフトに伴って、お米の神様だったお稲荷さんは、いつの間にかお金の神様に変化します。江戸時代、お稲荷さんは商人を中心に広く信仰されました。「お米を腹いっぱい食べたい」という人々のお稲荷さんへの願いも、「お金をたくさん欲しい」という願いに変わりました。

 神様に対する人々の願いの質が変われば、神社の感じも変わります。

 つまり、お稲荷さんを苦手に感じたり、怖く感じたりするのは、お金に対する人々(含む自分自身)の願いを、苦手に感じたり、怖く感じたりするからだと思い至りました。人はお金に執着するもの。その執着の思いが稲荷神社に残っていると、苦手に感じる方もいるわけですね。

 逆に言えば、苦手と敬遠せず、うまく折り合っていくと、お金との付き合い方も良いように変化するでしょう。お稲荷さんに苦手意識のある人は、ただ無心に「祓いたまえ、清めたまえ」と祈るだけにして、何かを感じようとせず、さっと立ち去ってはいかがでしょうか。だんだん慣れてきます。

 お稲荷さん参拝後に後味が悪く感じるならば、その後さらに、ご自身の好きな神社や緑豊かな丘や公園で過ごせばスッキリします。

 もちろん、お稲荷さんがお好きな方は、じっくり参拝し、願いを具体的にお伝えするとよいですね。稲荷は「意が成る」とも言います。ご自身の「意志」をぜひお稲荷さんに宣言してください。

 もう一度申し上げますが、神様に対する人々の願いの質が変われば、神社の感じも変わります。お金に対する感じ方も変化するでしょう。

 神様をどう感じるかは、われわれの心持ち・心掛け次第ということですね。

*本原稿は、『最強の神様100』の著者・八木龍平氏による書き下ろしです。