人が死ぬ最大の要因は……

 どれほど健康な人でも、歳をとれば必ず死ぬ。人が死ぬ大きな原因に「加齢」があることを忘れてはならない。

 現在、死因の上位には老衰と肺炎が含まれており、これらは年々増加しているが、いずれも加齢が主な原因である。老衰はもちろん加齢そのものだが、肺炎についても、医療水準の高い国では主に高齢者の命を奪う病気だ(かつて上位を占めた肺炎とは意味合いが異なる)。

 このことは、年齢別の肺炎死亡率を見るとよくわかる。肺炎による死亡は大半が七十歳代以降に起こる(8)。一方で、若い人は高齢者に比べ肺炎による死亡率が圧倒的に低い。年齢とともに呼吸器の機能が落ちて肺炎になりやすくなる上、肺炎にかかった後も、抵抗力の低さゆえに致命的になりやすいのだ。

 また、食べたものが気道に入って起こる肺炎を誤嚥性肺炎という。「誤嚥」とは、「誤って嚥下すること」、つまり、本来食道に入らなければならない食べものが気管側に入ってしまうことだ。

 若い人であれば「咳嗽反射」というしくみによってこれを追い出すことができる。いわゆる“むせ”である。一方、高齢になるとこの機能が衰えるため、そのまま肺炎を起こしやすい。こうした誤嚥が原因である肺炎と、そうでない肺炎を厳密に区別するのが難しいことも多い。その点でも、高齢者の肺炎は「高齢であること」そのものが原因と考えられるケースが多く、その場合は老衰と医学的には区別しにくい(8)。

 以上のことをあえてざっくり表現するなら「今の日本人の多くは、がんか生活習慣病か加齢で亡くなる」といえる。今後も、この傾向は大きくは変わらないだろう。

 なお、人が死亡する確率は年齢が上がるほど高くなるため、死因の上位を見るだけでは、必然的に「中高年層は何が原因で亡くなるか」しか見えてこない。この点には注意が必要だ。

 では、若い人は何が原因で亡くなるのだろうか?

 十歳代~三十歳代の死因一覧を見ると、国民全体の順位には反映されない、全く違った死因が並んでいることに気づく。

 十五歳から三十九歳までの死因第一位は自殺である。また、活動性の高いこの年代では、「不慮の事故」が上位に入るのも特徴的だ。そしてこれらの死は、社会的な対策で防がねばならないといえる。

 このように、「人は何が原因で死を迎えるのか」という命題に答えるには、年代ごとに異なる特徴を理解した上で議論する必要があるのだ。

【参考文献】

(1)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth7.html
(2)World Health Organization「The top 10 causes of death」
 (https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/the-top-10-causes-of-death)
(3)https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/research/genjyou/sibouritu.html
(4)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html
(5)“Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers: a prospective cohort study” R Sakata, P McGale, E J Grant, K Ozasa, R Peto, S C Darby(2012). British Medical Journal, 345:e7093.
(6)国立がん研究センター がん情報サービス「たばことがん もっと詳しく」
 (https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco02.html)
(7)“Time for a smoke? One cigarette reduces your life by 11 minutes” M Shaw, R Mitchell, D Dorling(2000). British Medical Journal, 320:53.
(8)“疫学 ―肺炎の疫学が示す真実は?― 死亡率からみえてくる呼吸器科医の現状と未来” 三木誠、渡辺彰(2013).日本呼吸器学会誌、2(6):663-671.

(※本原稿は『すばらしい人体』を抜粋・再編集したものです)