何かを捨てなければ自分のスタイルは見えてこない

──「即レスこそが正義」という風潮がありますが、それが成果に繋がるかどうかはわからないですね。長期的な目線が抜けていて、目先の罪悪感や恐怖心にふりまわされていたなと、いまお話を伺って実感しました。

本田:やっぱり、あれもやらなきゃこれもやらなきゃと、オールラウンダータイプを目指しすぎなのかな、と思うんですよね。

 断っちゃダメ、周りに合わせなきゃダメ、即レスしなきゃダメ……というように、全部できるようにならないと結果が出せないとか、理想の人生に近づかないとか、思い込んでしまっている。

 でも、そうやって義務感に縛られ続けていると、どんどんやりたいことも好きなこともわからなくなっていくんですよ。

 本来、やりたいことを実現するために「やるべきこと」があるはずなのに、「やるべきこと」にばかり時間を使っていたら、もったいないじゃないですか。

──全部ちゃんとできないと成功できないと思っているからこそがんばってしまうのかもしれません……。逆に、しなくていいことを決めたほうが成功に近づく、ということもあるのでしょうか。

本田:あると思いますよ。私ももともとは精神科医としていろいろな患者さんを診ていましたが、1991年からは発達障害を専門にしているんです。そのために、精神科医としての標準的なコースは、「しなくていい」と判断したんですよね。

──1991年というと、発達障害もいまほど認知度が高かったわけではありませんよね。その時点でそこまで絞るというのは、大きなご決断ですね。

本田:でもいまとなっては、私は「発達障害の専門家」と見られているので、別にほかの症状にそこまで詳しくなかったとしても、文句は言われないんですよ。

 つまり、自分のスタイルを決めるということは、何かを捨てることなんだと思います。「しなくていいこと」を自分なりに決めることによって、自分のスタイルが決まってきたり、生き方が見つかったりするかもしれない。

──たしかに。みんながみんな、オールラウンダーにならなければいけないわけではないですもんね。

本田:もちろん、オールラウンダーを目指す人もいていいんですよ。とくに管理職であればいろいろな視点や経験が必要だと思いますし。ただそのいっぽう、オールラウンダーは専門家にはなれない、というのも事実で。

 何かを目指すとき、私たちは必ず何かを捨てなければいけないんですよね。裏返せば、何かを捨てれば、新しく何かが見えてくるかもしれない。

「即レス」に限らず、いま当たり前に「やらなきゃいけない」と思っているもののうち、じつはやらなくてもそんなに困らないこともたくさんあるかもしれません。

 この本を通して、ご自身の働き方や生き方を振り返ってもらえたらいいなあと思っています。

今すぐ捨てるべき「即レス=仕事ができる」という呪縛本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事 精神科医。医学博士
1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。
今すぐ捨てるべき「即レス=仕事ができる」という呪縛