史上最強の失敗を描く『ホドロフスキーのDUNE』
実はここまでは前置きで、本稿の真のテーマは「失敗」である。
前述したように『デューン 砂の惑星』はSF史にさんぜんと輝く大傑作だ。しかし(だからと言うべきか)、やたらと「失敗」と縁が深い。まず、ハーバートは本作の出版を20以上の出版社に拒絶されたという。長過ぎるし、ややこし過ぎるからだ。出版後は大ベストセラーになるが、次は映画化にケチがつく。70年代に奇才アレハンドロ・ホドロフスキーが映画化を企画するも頓挫。84年にデヴィッド・リンチの監督で映画化されたものの、失敗作として酷評されている。
なぜ、これほど失敗が重なったのか。端的に言えば「ものすごくイノベーティブだったから」ではないだろうか。舞台設定だけでもめちゃくちゃ壮大だし、世界観も極めて複雑。一般的な感覚で受け入れられないのも無理はない。しかし、だからこそクリエーティブマインドを持つ人々に熱狂的に愛された。その筆頭が、つかれたようにこの作品の映画化に挑み、玉砕したホドロフスキーである。
その顚末は『ホドロフスキーのDUNE』というドキュメンタリー映画にまとめられているので、ぜひともご覧いただきたい。何を隠そう、筆者が最も好きな映画の一つがこれなのだ。クリエーターはもちろん、ビジネスで困難なプロジェクトに取り組んだ経験のある全ての人をエンパワーする映画ではないだろうか。
『DUNE』の映画化を構想したホドロフスキーは、まず「魂の戦士(=共に創造に取り組むキャスト・スタッフ)」を探し、これぞと思った人材を情熱的に口説き落として仲間に加えていくのだが、その顔ぶれがすごい。サルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、ピンク・フロイド、オーソン・ウェルズ、メビウス、H・R・ギーガー、クリス・フォス、ダン・オバノン……と、いずれ劣らぬ天才、奇才ぞろい。そして、彼らのパワーを結集してとてつもなく前衛的かつ魅力的な(そして莫大な予算のかかる)映画の絵コンテを完成させる。それを手に、ホドロフスキーは意気揚々とハリウッドに乗り込むが……。
前述した通り、映画化の企画は却下される。原作が出版を拒否された経緯をそのままなぞるかのように。しかし、このドキュメンタリー映画には「夢」のワクワク感がこれでもかというほど詰まっているので、その美しさをぜひ本編で味わってほしい。80歳を超えたホドロフスキーが目を輝かせて映画を語る姿は愛らしいといっていいほどだし、彼の妄想に巻き込まれた関係者たちが喜々として思い出を語る姿も子どものようだ。