組織の老化は、避けられない

 どんな企業も創業当初は顧客の問題解決をするために邁進しますが、成長期に差しかかると途端に競合を意識し始めます。

 そして、競合に勝つために様々な施策を講じ優秀な社員を採用して、リテンションのために様々な制度を導入しはじめます。次第に経営陣及び社員の目線は社内へ向いている状態となり、外部からの刺激に鈍感になった会社組織では一気に加齢が進みます。

 スタートアップに転職した大企業出身者が様々な人事制度を導入したり、管理の仕組みを構築したりすると社内に活気がなくなったり、大企業がスタートアップを買収すると、スタートアップの意思決定が以前よりも遅くなったりするのは、このようなことが理由です。

 また、老化は不可逆的変化であるため、多少スピードを遅くすることができても、いつまでも10代のように若々しくいることはできません。

 質問者のいうように、スタートアップと同じ変革を大企業で起こすのは容易ではありません

 そもそも置かれているステージも違えば解決する課題も異なり、それぞれのマネジメントが向けている視線の先も違うでしょう。

 イノベーションやトランスフォーメーションといった言葉に踊らされず、自社が今取り組むべき課題が明確になっているかどうかをもう一度考えてみましょう

 その課題から描いた問題解決の全体構想が現場と共有できていないのならば、現場が経営陣の意図する方向に進まないのは致し方ない結果です。

 また、小手先の改善を積み上げることはできたとしても、組織全体としての変革は期待できないでしょう。

 イノベーションやトランスフォーメーションは目的ではないので、まずは顧客と現場の声を聞き、解決すべき課題を明らかにして、それを会社全体で共有することが先決です。

 今回は、プロダクトライフサイクルとそれによって引き起こされる組織の老化ついて解説しました。次回はこの学びを活かして、大企業でのマネジメントについて考えてみましょう。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・IGPIシンガポール取締役CEO
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て現職。現在はシンガポールを拠点として政府機関、グローバル企業、東南アジア企業に対するコンサルティングやM&Aアドバイザリー業務に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、ITストラテジスト。