ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』が、9月29日にダイヤモンド社から発売された。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。
前回は、インドのマイナンバーであるアドハーを取り上げて、唯一無二を追求することによるサービスの展開について解説しました。
今回はその学びを活かし、日本でのマイナンバーの普及について考えてみましょう。
アーキテクトは横串を通さない
日本のマイナンバーは既に存在している多数のサービスを統合する発想で構想されています。保険証や免許証、その他行政サービスをマイナンバーに統合していくというのは、バラバラなものに横串を通す非アーキテクトな発想です。
一方アドハーは、既存のIDを統合するのではなく、インドIT企業大手のインフォシス共同創業者のナンダン・ニレカニ氏が中心となり、ゼロベースで構想されています。
セクショナリズムが問題となりがちな大きな組織などで、部門間のコミュニケーションを良くし、壁を低くすることで協力体制を築くことを「部門間の横串を通す」と表現することがあります。
ところが、これは抽象思考を担うアーキテクトが使うボキャブラリーではありません。
なぜなら、「横串を通す」ということ自体が「バラバラに存在する部門や人を関連付ける」ことであり、視点が具体にあることを意味しているからです。
第4回でも解説した川下の世界にどっぷり浸かってしまった人は、そもそも仕事というのは様々な部門や組織が力を合わせて共同作業をしていくという発想が骨まで染みついてしまっています。
これはとりも直さず「白紙を見た瞬間に既に様々な境界線が見えてしまっている」ことを意味しています。ここで境界線といっているのは、組織間の境界線、国や行政単位の間の境界線といったものです。
何を見ても「これはどこの担当だろう?」とか、「この専門家とあの専門家を連れてくればうまいコラボレーションができるのではないか」といったことを考えている時点で、既に白紙から考えるのとは程遠い状態になっているのです。