リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。
「人の心を動かすもの」が変わった!
リーダーの悩みは尽きません。
とくに近年では、ポジティブな仕方であれネガティブな仕方であれ、メンバーに一定の外的刺激を与えて、その行動を変容させるアクションは、ある種の機能不全に陥っています。
真面目で優秀なリーダーほど、なんとかチーム内の熱量の差を乗り越えようと、モチベーションを高めようとしますが、なかなかうまくいかないという人が多いのではないでしょうか
マクロな環境変化の視点から見たときにも、従来型のリーダーシップが行き詰まるのには納得がいきます。
そのポイントとして取り上げたいのが、いわゆる「VUCA」です。
ここであえて説明するまでもないかもしれませんが、VUCAとは変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字をつなげた造語で、いまの時代環境を端的に表す言葉だとされています。
もちろん、これまでも世界は変わり続けてきました。しかし、現代においては、これまで以上に変化のスピードや方向性、さらには変化の主体やその内実についての見通しが立ちづらくなっているのです。
以前なら、VUCAは「時代感覚に優れた人たちのあいだでもてはやされたキーワード」にすぎなかったかもしれません。
しかし、新型コロナウイルスの世界的な大流行によって、もはや世の中の大半の人が「VUCAであるとはどういうことか」を体感してしまいました。
そうである以上、この動きはますます加速していくはずです。
VUCAは当然、リーダーシップの文脈にも浸潤してきます。
なぜならこれは、「個人の価値原理のシフト」を引き起こすからです
かつて、多くの働き手はおおむね似たような価値観をもって仕事に向かっていました。
たとえば、みんながお金を上位価値に据えているチームであれば、昇給や賞与をちらつかせることで、チーム全体の「やる気」を高めることができました。
また、新卒一括採用によって横並びの競争環境が用意されている組織では、同期よりも早く出世したり、より優れた業績をあげたりすることが、「モチベーション」の源泉として機能していたことでしょう。
しかし、VUCAな世界ではそういうわけにはいきません。
共通した価値観のベースが失われ、個人の「楽しさ」「成長」「好奇心」「情熱」「自己表現」に重きが置かれるようになるのです。
給料が上がることを伝えても、もはや誰もがやる気になるわけではありません。
もちろんお金を価値の中心に据えるメンバーもいるでしょうが、そうではない個人も確実にいます。
他者から褒められることに何よりも喜びを見出す人もいるし、他人の評価などまったく気にしない人もいます。
また、経営者が「業界ナンバー1を目指そう!」と暑苦しく語ったときに、そのメッセージがまったく響かない社員もいるでしょう。
こうなると、もはや「上司からの命令だから」と言われたくらいでは、全然動こうとしない人がいてもまったく不思議ではありません。
これは決して「打っても響かない人材」が増えているということではありません。
むしろ単純に、人を動かす価値観の中心が「外的なもの」から「内的なもの」にシフトしているのが大きな要因なのです。
これまでのような外因的なリーダーシップの下では、もはや人はスムーズに動けなくなっています。
「なぜこのリーダーの言うことを聞かないといけないのか?」──部下たちからすれば、それがますますわからなくなっているのです。
そんな状況のなか、リーダーがこれまでどおり外的刺激に訴え続ければどうなるでしょうか?
相当の反発や軋轢が生まれるはずです。
したがって、これまで優秀なマネジャーとされてきた人ほど、突然、リーダーとしての足場を失っていくことになります。
「自分はメンバーから信頼されている」と自負していたのに、いつからか急速に人望を失ってしまう。
何かメンバーの不信を買うようなことをしたわけでもないのに、チームから人が離れていく──。
そういうことがあちこちで起こりはじめています。
悩みを抱える組織のリーダーのなかには、この変化に気づいていない人がまだまだたくさんいます。
彼らに必要なのは、「外因的な刺激だけではもはや人は動かない」という事実認識なのです。
現代のリーダーは、いつまでもこのやり方に頼っているわけにはいきません。
できるかぎり早く、「内因的な原理によって人を動かす方法」を理解し、それを実践していかねばなりません。
その意味で「リーダーシップの更新」は、きわめて緊急性が高いタスクなのです。