リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。
「これまでどおりよろしく」が
チームを腐らせる
前回の記事では、チームが自らゴールに向かって動き続ける状態をつくるには、「ゴール設定」とそれが描く世界への「没入」が必要だということをお伝えしました。
現状の外側にありながら、自身の真のWant toに根ざしているゴールを発見し、そこに臨場感を生み出せたとき、つまり、「自分たちならこれを達成できるはずだ!」という手応えが得られたとき、人は外的な刺激(報酬や懲罰)がなくても自律的に行動を起こすことができます。
この「達成できるはずだ」という手応えのことを、ここでは「エフィカシー(Self-efficacy:自己効力感)」と呼んでいます。
しかし、ゴール世界へのエフィカシーが高ければ、すべてが万事OKというわけではありません。
今回はそこについて見ていきましょう。
たとえば、ゴールが「前年比105%の部門売上を達成する」であった場合、たしかにチームはそこにエフィカシーを感じられるかもしれません。
その部門に所属する各メンバーは「あのクライアントとの契約を維持できれば、たぶん達成できるだろうな」とか「いまよりも営業リソースを大幅に拡大すれば、ギリギリクリアできるかもしれない」とかいった認知を持つことになるでしょう。
しかし、これではチームの内部モデル書き換えは起こりません。
ゴールが「現状」の延長線上にしか設定されていないからです。
脳はこれまでの延長線上でゴール達成までの道のりをシミュレーションし、それに必要な最低限の行動だけをアウトプットしようとします。
これがチーム・組織に「たるみ」や「熱量差」が生まれる原因です。
だからこそ、従来のリーダーは、外因的な働きかけによって、メンバーの行動をブーストしなければならなかったのです。
しかし、今日ではもはやこの手法は機能不全に陥りつつありますから、別の方法を考える必要があります。
そのときわれわれの手に残されているのは、「現状の外側」にあるようなゴールを設定し、それに対するチームのエフィカシーを高めていくことです。
「そのゴールが達成できて当然だ」という圧倒的な没入感覚を、メンバーのなかにデザインしていくことです。
たとえば、スティーブ・ジョブズは、当初は誰もが不可能だと考えるような事柄であっても、周囲の人たちに「ひょっとしたら達成できるかもしれない」と思わせてしまう天才でした。
アップル・コンピュータの共同創設者バド・トリブルは、あたかも現実を捻じ曲げてしまうようなジョブズの影響力を何度も目のあたりにし、これを「現実歪曲フィールド(RDF: Reality Distortion Field)」と呼んでいたといいます。
現状維持の誘惑に引きずられることなく、いかにして「現状の外」にあるゴールにチーム・組織全体を、個々のメンバーを、そして自分自身を「没入」させていくか──リーダーシップはこの一点にかかっているのです。