リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。
「Want toの仮面」をつくり出す
コンプレックス感情
自分が「本音中の本音で『やりたい!』と言えること」がどれくらい見えているだろうか?
チームを率いるリーダーであれ、そこで働くメンバーであれ、ふつうに仕事をしていると、そこには膨大なHave to(やらねばならないこと)が降り積もっていく。
その結果、個人のWant toは埋もれていき、自分がしたいことは見えなくなっていく。
少なくとも、リーダーとして、チームとして、もっとパフォーマンスを高めようと思うなら、個々人が心から望むことをはっきりさせるべきだ。
「真のWant to」の解像度が高い人・組織は、実際に強靭だし、圧倒的な成果を収めている。
そのためにはまず、自分の周りを覆っているHave toに気づき、それを剥がしていかねばならない。
しかし厄介なのは、ほとんどのHave toがそれ自体は「Have toの顔」をしていないことだ。
むしろ、本人の目には「やりたいこと」として見えていることが多いので、注意が必要だ。
たとえば、「あなたの真のWant toは?」と聞かれたときに、一定数の人は「お金持ちになりたい」と答える。
この願い自体は、たしかにWant toの形態をとっている。
しかし、よくよく掘り下げてみると、ほとんどの人が求めているのはお金それ自体ではなく、そのお金によって手に入る「何か」であるケースがほとんどだ。
なかには本当に経済的な成功に異常なまでの渇望を持つ人もいる。
だが、それもなんらかのHave toがベースになっていることが多い。
たとえば、幼いころに困窮生活を経験しているパターンだ。
貧しさに対する恐怖心や強迫観念が引き金となって、「自分はお金持ちにならなければならない!」という強いHave toが生まれている。
この認知モデルの範囲内でゴール設定を行っても、根本的な行動変容は望めない。
お金にかぎらず、人々のコンプレックスはHave toの典型的な「隠れ家」だ。
「エンジニアとして活躍してきたけれど、どうしてもコンサルタントになりたい」という人がいるとする。
本人はそれが自分本来の夢であるかのように感じているが、周囲から見ると、とてもその人にコンサルタントとしての適性があるとは思えない。
よく分析してみると、そういう人は「自分は頭が悪い」というコンプレックスを抱えていたりする。
つまり、コンサルタントとして成し遂げたいことが具体的にあるわけではなく、ただ単に「頭のよさそうな仕事」に就いて、コンプレックス感情を慰めようとしているのだ。
この転身はまずうまくいかないだろう。
一時的には劣等感が癒やされるかもしれないが、そのうち「やっぱり、自分は頭が悪い。これをなんとかしなければ……」というHave toが再び首をもたげてくる。
どうにも満たされない彼は、またなんらかの別のゴールを設定するかもしれない。
だが、いつまで経っても「現状の外側」に意識を向けることができないので、堂々巡りを繰り返すことになる。
そうこうするうちに年齢を重ねてしだいに「熱量」を失い、なんとなく現状を維持するだけの毎日に引きこもることになる──。
こんなふうに、コンプレックスから生じたHave toが「Want toの仮面」をつけているパターンはじつに多い。
プレイヤーとしては超一流の営業マンが、あまり適性のないマネジメント職に就こうとしていたり、定型的なタスク処理をやらせたら右に出る者がいないほどの人が、なぜかクリエイティブ系の職種を希望していたりするケースだ。
ただ人望を集めたかったり、承認欲求を満たしたかったりしてリーダーになった人は、「本当はやりたくないけれど、メンバーから慕われるためにやらないといけない行動(=Have to)」をとり続けることになる。
Have toが裏で引き金となっているかぎり、当人にも周囲にもポジティブな効果は望みづらいものだ。
もちろん、その人に隠された才能がある可能性は否定できない。
しかし、まずは自分に問いかけてみよう。
ひょっとしてそこには「人から頼られたいからマネジャーになりたい」とか「機転の利かない不器用な自分を変えるためにクリエイターになりたい」といった希望が隠れていないだろうか、と。