「半年」以上、待とう

 ここまでの方法を駆使して、相手の行動を変えようとした場合、どのくらいの期間で効果が出るのでしょうか。

 私の経験から言うと、「半年」かかります

 10人の患者さんに「朝散歩」をすすめた場合、すぐにはじめる人は1人。3ヶ月以内にはじめる人は2人。残りの7人は、半年以上してからはじめる。そんなイメージです。

 治療開始の最初の1~2ヶ月は、しつこく「朝散歩」の話をしますが、途中から、その話題をしなくします。

 すると、半年くらいして、「最近、調子がいいようですね」と聞くと、「朝8時に起きて散歩しています」とサラッと言うのです。「先生に言われたからやっているわけじゃないよ」というような雰囲気を醸し出しているのがポイントです。

 人に「言われてやる」というのは、本当に嫌なものです。最終的に、やるかやらないかは自分の意思です。相手の意思、やる気、人格を尊重した上で、「情報提供」を根気よく続け、ようやく半年くらいかけて、相手は変わりはじめるのです。イライラせず気長に関わりましょう。

「他人を変える」より「自分を変える」

 やはり、他人を変えるより、自分を変えるほうが大事です。

 他人を変えたければ、まず自分から変わります。昔から何度となく言われてきたアドバイスではありますが、じゃあ、どのように変わればいいのでしょうか。

 イソップ寓話の「北風と太陽」はご存じですね。北風と太陽が力比べをすることになり、どちらが先に、旅人の上着を脱がせることができるのか……という話です。

 北風は力いっぱい風を吹かせて上着を吹き飛ばそうとしますが、旅人は上着を強く押さえてしまい、脱がせることができません。

 一方で、太陽は日差しを照りつけることで、旅人は暑さに耐え切れず、自分から上着を脱ぐのです。

 さまざまな解釈ができる寓話ですが、人を行動させるには2通りの方法があることを教えてくれます。それが、「不快なことを避ける」と「快適なことを求める」の2つです。

 人は、寒い風が吹けば、「寒さ」(不快)を避けるために上着を押さえますし、日が差してポカポカと暖かくなり、ちょうどいい「暖かさ」(快適)を得るために、上着を脱ぎます。力尽くでやってもうまくいかず、本人が自発的に動くしかないのです。

不快なことを避ける」というのは、ノルアドレナリン型モチベーションです。恐怖や不快、叱られることを避けるために頑張るというモチベーションです。

 一方で、「快適なことを求める」というのは、ドーパミン型モチベーションです。楽しさや褒美、褒められることを求めて頑張るというモチベーションです。

 職場でも家族関係でも、相手に「行動させよう」とする場合、「北風」的なアプローチをしている人がほとんどです。相手は反感を持ち、むしろ防衛的になり、こちらの話を聞こうとしません。まったくの逆効果の場合も多いです。「太陽」的に対応するほうが、はるかに簡単に相手は動きます。

 相手を信頼し、リスペクトする。相手を認め、評価する。ポジティブな言葉を増やし、肯定的に相手と関わるように自分の行動を変えれば、必ず相手は動きます。

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。
コロナ禍に22万部のベストセラーとなった著書『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)のほか、シリーズ80万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版)など30冊以上の著書がある。