「やりたいこと」を減らせない人は、「ファン・デューティ・バランス」がおすすめ

 私は、「やりたいこと」を減らせない人には「ファン・デューティ・バランス」という考え方をおすすめしています。

「ファン」は楽しいこと、やりたいこと。「デューティ」は義務、やるべきことです。仕事と生活のバランスではなく、「やりたいこと」と「やるべきこと」のバランスをとるという考え方です。

「やりたいこと」をやる時間を最大限に優先し、睡眠・身の回りのこと・やるべきことが増えすぎないように気をつけるのです。

 なぜ「ワーク」と「ライフ」ではなく、「ファン」と「デューティ」かと言うと、その人にとって仕事が「やりたいこと」であれば、仕事をする時間が「ファン」になるからです。

「やりたいこと」を減らせない人は、義務感でやっていることがあまりにも多くなりすぎると、メンタルヘルスを損なう可能性が高くなります。

 その場合は「ファン・デューティ・バランス」の考え方を生活に取り入れるのがよいでしょう。

「やりたいこと」を最優先にする

 バランスをとるのが上手な人は、「やるべきこと」を先にやり、身の回りのこともきちんとすませて、残った時間を「余暇」として好きなことに使います。

 余暇の時間が少ない日があっても、別の日とトータルで考えて調整することができるので問題ないわけです。

 でも、「やるべきこと」のストレスが強くて、毎日息抜きをしないとやっていけない人もいます。

 たとえば対人関係が苦手な人の場合、職場で大勢のなかで働くことにいつもストレスを感じていて、1日働くと人一倍疲れてしまうということもあります。

 そういう人にとって、プライベートな時間にやりたいことをして、翌日の仕事に向けて活力をたくわえることは、欠かせないことなのです。

 その場合には、「やりたいこと」を何よりも優先することが大切です。

 まずは「やりたいこと」をやる。「やるべきこと」を増やしすぎて「やりたいこと」を削ることは、極力避ける。「睡眠」の時間もなるべく確保する。

「身の回りのこと」は、やっておくに越したことはありませんが、毎日すべてをきちんとやらなくてもなんとかなります。

 身の回りのことを多少おろそかにしてもいいので、心の健康、体の健康を優先しましょう。

できないことは「できない」と言っていい

 ちなみに私も、「ファン・デューティ・バランス」で生活を考えています。

 基本的に仕事は好きなほうなので、長時間仕事をしても「やりたいこと」と感じることが多いですが、なかには「やるべきこと」として負担を感じる仕事もあります。

 また、仕事以外にも「やりたいこと」はあり、その「やりたいこと」をこれ以上は減らせないというラインがあります。

 たとえば音楽を聴くこと、映画、海外ドラマ、スポーツ、お笑いなどの動画を見ることに、毎日2~3時間は絶対に必要です。そうすることでストレスを発散して、エネルギーをたくわえているのです。

 私は自分がそうやって、かろうじてバランスをとっていることを自覚しているので、書籍や雑誌の原稿を依頼されたときには、「締め切りを守れない可能性もあります」と伝えています。どんなに締め切りが迫っていても、書けないときは書けないからです。

 私は「やるべきこと」が増えたときに、「やりたいこと」を削って対応していくことができません。そのため、仕事の関係者のみなさんには申し訳ないのですが、できる範囲でしか対応できないと伝えています。

 言いわけのようで恐縮ですが、読者のみなさんにも「できないことはできないと言っていい」という考え方を知っておいてほしいと思います。

(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・改変したものです)

本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。