仕事、人間関係…日中にストレスが多く、そのストレスを打ち消そうと、ついつい夜中までスマホで動画やネットを見てしまう、という人も多いのではないだろうか。発達障害専門の精神科医・本田秀夫氏は、「発達障害の特性のある人ほどこのパターンに陥りがちだ」と言う。本田氏の記事「発達障害の人ほど『リベンジ夜ふかし』をやめられないメカニズム」もSNSでかなり話題になっている。
本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。
2021年9月に、本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』が発売となった。本田氏は本書について、「『発達障害』とはっきり診断されている人というよりも、その特性はあるけれど診断されずに『グレーゾーン』と言われるような方や、『なぜかわからないけれど生きづらい』と思っている方にこそ読んでほしい」と語る。今回は特別に本書の中から、「『ワーク・ライフ・バランス』を取るのが苦手」という悩みについて、一部内容を抜粋、編集して紹介する。
「やりたいこと」と「やるべきこと」のバランス
いま、世の中では「ワーク・ライフ・バランス」、つまり「仕事とプライベートな生活のバランス」を考えることが常識になっています。
これは当然、大切なことですが、「ワーク」と「ライフ」のバランスをとるのが上手な人もいれば、苦手な人もいます。
私は生活のバランスを考えるときに、次ページのような図をよく使っています。
これは、1日の生活を「睡眠」「身の回りのこと」「やりたいこと」「やるべきこと」の4つに分けて、その割合を図式化したものです。
左端が、「やりたいこと」を自由にできる日。休日のイメージです。そして右端は「やるべきこと」が多くて「やりたいこと」をするための時間が少ない日。仕事が忙しい日のイメージになります。
私たちは、この図の左端から右端までの割合を、行ったり来たりしながら生活しています。
右端のような日が続くとストレスがたまってしまうので、仕事量を減らして時間を捻出し、左のほうに移動して、やりたいことをやってストレスを解消するわけです。
仕事量に応じて生活を調整しながら、忙しい日ばかりが続かないように注意して、バランスをとります。
このような形で「ワーク・ライフ・バランス」がとれていれば、オンとオフの切り替えは十分にできていて、とくに心配はないでしょう。
「ワーク・ライフ・バランス」をとるのが苦手な場合は?
一方、発達の特性があって、「ワーク・ライフ・バランス」をとるのが苦手な人の場合、次の図のように、右端に進むにつれて、仕事などの「やるべきこと」が増えているのに、「やりたいこと」を減らせないことがあります。
「やりたいこと」を多少減らすことはできても、あまり多くは減らせない。「これ以上は減らせない」というラインがあるわけです。
上の図の「やりたいこと」の中央部分の縦の点線がその限界ラインです。
一般の人は、「やるべきこと」が増えてくると、「やりたいこと」をうまく減らしますが、調整が苦手な人の場合、「やるべきこと」が増えてくると、増えた部分がストレスになります。そのストレスを発散するために、「やりたいこと」をやる時間のさらなる上積みが必要になるのです。
やるべきことが増えれば増えるほど、睡眠時間を削ったり、身の回りのことを後回しにしたりして、やりたいことをやってしまいます。
結果として、図の右端のようなバランスになるのです。
「ワーク・ライフ・バランス」をとるのが苦手な場合、仕事が忙しくなってきたときに、残された時間で趣味を楽しむか、睡眠をとるか、身の回りのことをするか、時間の使い方に悩んでしまうことがあります。
睡眠時間を確保するためには、趣味をあきらめなければいけない。でもあきらめたくない。
「ワーク」が増えた結果、「ライフ」が乱れてしまって、バランスをとれなくなることがあるのです。