二強対立モデルの設計をする

 一つの属性がマジョリティを占める組織において、多様性を高めようと別の属性を増やしたところで、マイノリティがマジョリティに吸収される結果になったりと、思うようには機能しません。

 二者が対立する構図があって初めて、その他少数も多様化に貢献できるようになります。

 政治の世界で考えてみると、第一党が圧倒的な力を有する場合、第一党の力ばかりが増す中、小規模政党の数自体が増えたところで、多様性には貢献しません。発言力の弱い小規模政党がいくつ増えても、圧倒的な勢力を誇る第一党に飲み込まれてしまうのは時間の問題です。

 組織の多様性を高めるには、二強対立モデルを意識的に作る必要があります。分かりやすさのために敢えて国籍で表現すると、日本人とタイ人が2大勢力として存在しているような状態です。そうすることで、それ以外の国籍の人も多様性に貢献することができるようになります。

 組織全体でこのような二強対立モデルを作るのは難しいと感じるかもしれませんが、全ての階層・部門においてそれを整える必要はありません。

 前述のとおり多様性が求められるのは、多くのケースにおいて川上です。

 長期的な視点で自由度を上げて将来を構想するために多様性が必要である、という意味では、経営陣が多様化できていれば十分ということになります。もしくは、研究開発や新規事業開発のような、新たな発想が求められる部門だけでもよいかもしれません。

 定型的な仕事がメインの川下で無理に組織を多様化しようとすると、ミスコミュニケーションが発生し結果的に多大なコストを支払うことになったり、組織としてのまとまりがなくなったりします。

 それらを回避しようとルールや規律を設ければ、当然それらにもコストが発生します。

 多様化を考える際には、得られるメリットが、多様化実現に際して必要なコストを上回っているか、費用対効果をしっかりと意識しましょう。

 次回以降も、読者からの質問に答える形でアーキテクト思考について事例を交えながら解説できればと思いますので、こちらから質問をいただければと思います。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・IGPIシンガポール取締役CEO
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て現職。現在はシンガポールを拠点として政府機関、グローバル企業、東南アジア企業に対するコンサルティングやM&Aアドバイザリー業務に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、ITストラテジスト。