テレワークが開けた
企業社会の“パンドラの箱”
本稿では、エッセンシャル・ワーカーや工場や小売業、人的サービスなど、出社しないと仕事にならない職種を除き、いわゆる事務系のホワイトカラーの仕事に絞って話を進める。
日本企業の生産性は、製造部門は国際的にも遜色ないが、ホワイトカラーの生産性が低いことは以前から指摘されてきた。そこに、突如テレワークという“黒船”がやってきたのである。
黒船は、ほとぼりが冷めたら、追い返してしまってよいのだろうか。テレワークという黒船は、日本人の働き方という“パンドラの箱”を開けたのではないだろうか。その箱を閉じて、早く元に戻そうという発想は、時代と逆行してはいないだろうか。
テレワークでは人事管理はできない
という、日本企業の思い込み
企業の立場から言えば、「テレワークではきめ細かい人事管理ができない」という懸念が強い。フェイス・トゥ・フェイスで細目を詰め、仕事のプロセスを見ることで進捗を管理することによって、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)を維持しようとしてきた管理職も少なくない。
野村総合研究所の社内調査(日経速報ニュースアーカイブ 2021.8.17)によると、テレワークでモチベーションが下がったのは、仕事の進め方が分からない3年未満の新人と、部下の実態が把握できない40歳代の管理職であった。逆に30歳代は、上司の目を気にせず、伸び伸びと仕事ができたと言う。仕事を教えてほしい人と、管理したい人は職場勤務を望む一方、仕事を自律的にやりたい中堅社員は、テレワークでモチベーションが上がっていたのである。
また、そもそも日本の賃金体系は、非管理職に関しては超過時間に対して残業代が払われる仕組みになっており、労働時間の判定が難しくなるテレワークは、管理に限界がある。その時間で管理するという伝統的な働き方も見直そうということで、数年前から働き方改革が叫ばれてきたのではないだろうか(会社から自宅のパソコンに不定期に信号を送り、きちんと働いているかをチェックする“性悪説”に基づいたシステムを採用している企業もあるが、これは自律的に仕事をしている従業員からは、甚だ評判が悪い)。