自分の中にあるネガティブな感情に向き合うのはつらいものだ。しかし、ネガティブな感情には自分を深く読み解くヒントが眠っている。自分の価値観をはっきりさせ、自分らしく生きるためには、マイナス感情を読み解いていく必要がある。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、行き着いた最も効果的な習慣は「書く」ことだった。必要なのはノートとペンのみ。自分と向き合い、本当に大切なことに気づけば、生き方は今よりずっとシンプルになる。自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。
マイナス感情にこそ問題のサインがある
「書く瞑想」は、1日の放電(気分を下げたこと)と充電(気分を上げたこと)を書き出します。
これを日々重ねることで、気持ちのメンテナンスになると同時に、小さな成長や感謝、心の豊かさを発見できます。
しかし、「自分には放電はない」「マイナス感情と向き合うのはしんどいから充電だけ書きたい」という方もいます。
確かに、放電感情を書き出すのは人によってテンションが下がるでしょう。
しかし、自分の中のマイナス感情に向き合うことは、極めて重要な意味を持ちます。
内観療法の権威である吉本伊信氏の言葉を引用しましょう。
よく、現状から脱皮したいと考え悩んでおられる方でも、自分をさらけ出すのはいやだ、自分と向き合うのは怖いとおっしゃいます。たしかに、自分を見つめるのは怖いことですし、忍耐のいることですが、ここを通過してこそ目が開け、自分の本当の生き方がつかめることは、多くの内観者が身をもって実証されております。
──三木善彦『内観療法入門』序文
マイナス感情には、自分の課題やそれを変えるヒントが多く出ています。
ネガティブな感情とうまく折り合えず、スルーしているとポジティブな感情も味わいにくいのです。
そして何より、見せかけのプラス思考、マイナス感情からの逃避を続けていると、本当の問題に向き合えなくなります。
人生の大切なメッセージは、「マイナス感情」の方に隠れていることが多いのです。
マイナス感情をスルーする癖がつき、無感情、無感覚、麻痺状態になってしまうと、ストレスから一時的に解放されますが、同時にやりたいこと、自分が何を望んでいるかも感じられなくなります。
マイナスとプラスの感情の両方を受け取り、感情の全幅を味わうことで、感情全体、心全体を感じることができます。
良いことだけを感じて、悪いことはスルーするという都合のいいことはできないものです。
本当に取り戻したいのは、見せかけのポジティブ状態ではなく、あるがままの全体の感情を受け取るという感受性だからです。
これを深めていくには、マイナスとプラスの声の両方を感じることが大切です。
イギリスの元首相でノーベル賞作家でもあるウィンストン・チャーチルは、自らの心の中をたとえて「白い犬」と「黒い犬」との戦いという表現をしています(*1)。
白い犬とは、「世界が渇望する何かを自分は持っているのだ」と信じさせる存在。そして、黒い犬は「お前には価値などない、お前が思いつくことなど何もかも幻想だ」と、彼を脅して圧倒する深い鬱的な存在。
心には白い犬と黒い犬が両方出てくると言います。
心の中で白い犬と黒い犬は同時にいて、この健全なる対話が私たちを作るのです。だからこそ、この両方を見ていくことが大切です。
卑近な例ですが、嫌なことから真に求めているものを引き出す例を1つ挙げておきましょう。
私は、小学生の頃、全校集会、制服、集団登校が嫌いでした。
なぜか?──自由でいたかったからです。これらすべての中で、私は強烈な不自由さを感じていました。枠にはめられて、人と合わせないといけないことが本当に苦手でした。
「何が嫌い」かがわかると、逆の「好き」に気づけるのです。
まさに陰陽の法則で、「縛られるのが嫌」は、「自由でいたい」という価値観に気づくきっかけになります。
私が自由な働き方ができるように独立した生き方を選んだのも、自分の深い価値観に気づけたからでした。
「好きなこと」は、「嫌いなこと」を明確にすることで見えてくることがあります。
表裏一体だからこそ、放電を出すことでその中に潜む価値観や欲求を探っていきましょう。
(本原稿は、『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)