デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいました。今回登場するのは、レゴを活用したワークショップ「レゴシリアスプレイ」を世の中に広めるロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツの蓮沼孝社長と、石原正雄取締役です。一般には子ども向け玩具のイメージの強いレゴが、なぜ今、企業研修で強い人気を誇っているのでしょうか(聞き手は蛯谷敏)。

■「レゴシリアスプレイ」01回目>「チームビルディングから戦略策定まで、あの玩具が企業研修に引っ張りだこ」

玩具を通して心理的安全性を育む。レゴが同僚との心の距離を縮めるワケ世界各地の企業がレゴシリアスプレイを研修に導入している

――レゴシリアスプレイを企業研修に導入しているケースが増えているそうですね。1つめの理由については教えてもらいました(詳細は「チームビルディングから戦略策定まで、あの玩具が企業研修に引っ張りだこ」)。ほかにも理由はありますか。

蓮沼孝氏(以下、蓮沼) 「レゴ シリアスプレイ」のもう1つの特徴は、心理的な安心感を醸成できる点だと思います。「レゴ シリアスプレイ」の多くのワークショップでは、参加者全員が自分の意見やアイデアを出し切る場をつくるために、1時間ぐらいかけて雰囲気を作り上げていきます。

 巷間、心理的安全性についての書籍がベストセラーになっていますが、案外それを実現する具体的な方法は語られていません。一方で、「レゴ シリアスプレイ」は誕生した時からこの心理的安全性の重要性に着目してきました。相手の話をじっくり聞き、相手を承認し、その後に質問するといった基本的な要素が、「レゴシリアスプレイ」には備わっています。

 あるいは、ワークショップの中には、誰かほかの人の作ったレゴ作品を語るプロセスがあったりします。普通、作者は自分の意図と違う解釈をされると、「違っているよ、あなたは私のことを理解してない」と感情的になってしますでしょう。

 しかしレゴ作品を通じてコミュニケーションをすると、「そういう見方もあるのか」とすんなり受け入れられてしまうんですね。こうしたコミュニケーションの緩衝材としての機能が、レゴブロックにはあります。

――対立ではなくて、視点の多様性を受け入れられるわけですね。

蓮沼 自分という人間と、自分の考えを表現した作品が分かれることで、自分自身を客観的に見る「メタ認知」ができる状態になっているわけです。ワークショップでは最初からあまり難しい説明はしませんが、すべてが終わった後にこうした種明かしをしていきます。

――組み立てることの力、手を動かして何かモノを作ることの力は強力なのですね。

石原正雄氏(以下、石原) 僕らの体、身体性の力というのは大きいですね。

 僕たちは頭の中のことばっかり考えていますけど、実は入り口としての「手」が、情報の入り口としてとても大切な役割を果たしています。解剖学でも、神経をたどっていくと、手先の神経はものすごく数があります。知識とは、体のいろいろな感覚器官を通じて取り入れたものが総合的に頭の中で昇華されているイメージです。

「見える化」という言葉がありますが、「レゴ シリアスプレイ」は決して、知識の「見える化」を支援するツールではありません。なぜかというと、そもそも頭の中にないものを形にすることが本質だからです。

 頭の中にすでにあるものを形にするなら、「犬はこういうイメージ」とか「鳥はこういうイメージ」といった具合につくっていけばいいわけです。だけど、「リーダーシップには何が必要か」といった問いには、最初から形がないわけです。

 それを目の前で、手を動かしながらレゴブロックで形を作っていくことで、「そうか、こういうことが重要なのか」といった具合に認識していくわけです。無意識にもっていた構造を目の前で、意識的に見るためのツールが、「レゴシリアスプレイ」なんですね。(2021年12月29日公開記事に続く)