ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 話題の『Invent & Wander』から、一部を特別公開する。

ジェフ・ベゾスが妻から聞いた「人生の深い一言」Photo: Adobe Stock

創意工夫で問題を乗り越える力

 私と弟は大変恵まれた子ども時代を送った。祖父母と長い時間を過ごすことができたからだ。

 祖父母というのは、親とは違うことを教えてくれる存在だ。親子の関係と祖父母との関係はまったく違う。私は4歳から16歳まで毎年欠かさず、祖父の農場で夏を過ごした。

 祖父は何でも自分でできる人だった。人里離れた田舎で暮らしていると、何かが壊れたからといってすぐに誰かに電話して来てもらうなんてことはしない。自分で修理する。子どもだった私は、祖父が自分で何でも解決するのを見てきた。

 祖父がキャタピラー社のD6というブルドーザーの中古を5000ドルで手に入れたことがあった。掘り出し物だった──本来はるかに高いものだが、ボロボロに壊れていたので安かった。変速機は外れていた。油圧器は動かない。そんなわけで、その夏はずっと修理ばかりやっていた。超大型のギアをキャタピラーに注文し、それが届いた。でも大きすぎて、移動させることもできなかった。すると祖父はクレーンを自分で建ててギアを動かした。祖父は本当に自分で何でもやってしまう器用な人だった。

 祖父はまた、慎重で保守的で物静かで内向的な人物で、後先考えずに何かをするということがなかった。ある日、外に出ようとして農場の正面の門を開けるために車を降りた。そのとき祖父はサイドブレーキを引き忘れてしまった。門のところまで来たとき、車がゆっくりと門のほうに下ってくるのに気づいた。祖父は、「これはいい。かんぬきを外して門を開ける時間はある。車がちょうどこのあいだを通れるな。よしよし」と思った。だがかんぬきを外したところで車が門にぶつかって、祖父の親指は門とフェンスの支柱のあいだに挟まれて皮膚がすべて剥がれてしまった。肉が垂れ下がり、細い薄皮一枚でつながっている状態だった。

 祖父は自分に腹を立て、肉を引きちぎってその辺の草むらに投げ捨て、車に戻って16マイル先のディレーという町にある病院の救急室まで運転していった。

 病院に到着すると、医師は「大丈夫です。ちぎれた部分をつなげばいいですから。で、どこにあります?」。すると祖父は、「ああ、捨ててしまったよ」と答えた。

 そこで看護師やらみんなで一緒に農場に車で戻った。ちぎれた親指を何時間も探したが見つからない。動物か何かに食べられてしまったのだろう。そこでまたみんなで病院に戻ると、医師からこう告げられた。

「皮膚を移植しなくちゃなりませんね。親指をお腹に縫い付けて6週間そのままにしておくこともできます。それがいちばんいいでしょう。または、お尻の皮膚を取って縫い合わせる方法もありますが、そっちは次善策ですね。でも、6週間も親指をお腹につないでおかなくてもよくなります」

 祖父は、「2番目がいい。尻の皮膚を移植してくれ」と言った。

 結局そうなった。移植は成功して、親指はもとに戻った。でも私が鮮明に覚えているのは、というか家族はみんなよく覚えているのだが、面白いことに祖父が毎朝かならず同じ習慣を儀式のように守っていたことだ。

 祖父は朝起きて、シリアルを食べ、新聞を読み、長い時間をかけて電気カミソリでヒゲを剃っていた。15分もかけていたほどだ。顔を剃り終えると電気カミソリを二度、親指に走らせる。

 なぜかというと、尻の毛が親指に生えていたからだ。でも祖父はそんなことなどこれっぽっちも気にしていなかった。

何かをしようとしたら、問題に突き当たる

 何が言いたいかというと、物事を前に進めようとすればかならず問題に突き当たるし、失敗するし、うまくいかないことがあるという話だ。

 そのときは、もとに戻ってまたやり直せばいい。転んだら、そのたびに立ち上がってまたやってみる。自分でできることをやる。自力でやる。箱から抜け出す方法を自分で発明する。

 アマゾンでもそんな羽目に陥ったことは数知れない。数え切れないほど失敗をした。アマゾンほど失敗するのにうってつけの職場はない。私は失敗のベテランと言ってもいい。これまでに散々練習してきたから。

 ひとつ例を挙げよう。もう何年も前になるが、品揃えを拡充するためにサードパーティが出品する事業を新たに加えたいと考えていた。そこでアマゾン・オークションを立ち上げた。でも誰も集まらなかった。次にzショップという固定料金形式の出品サイトをはじめたが、またしても誰も来てくれない。それぞれに一年から一年半もかけた末の失敗だ。

 仕方がないので最後に、自社仕入れ商品と同じ商品詳細ページにサードパーティ商品も載せてみようということになった。それがマーケットプレイスで、開始早々うまくいきはじめた。

 自分たちのリソースを使って新しいことに次々と挑戦し、物事の真理──お客様は何を本当にほしがっているか──を探り出せば、たいていの努力は報われる。この姿勢は日常生活でも役に立つ。どんなふうに子どもを助けたらいいか? 何が正しいことなのか?

 私たちは、子どもが4歳のときから尖ったナイフを使わせ、7歳か8歳で電動工具を使わせた。妻のこの言葉は名言だ。「指が一本くらいなくなっても、自分で何もできない人間になるよりはまし」。これこそ、人生に対する最高の態度だと思っている。

(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)

ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander』を刊行。