経営者や著名人に圧倒的な信頼を得るインタビュアーの宮本恵理子さん。一瞬で相手の心をほぐし、信頼を得る宮本さんの聞く技術についてまとめた新刊『行列のできるインタビュアーの聞く技術 相手の心をほぐすヒント88』では、相手の心に寄り添い、魅力を良さを引き出す宮本さん独自の技術をふんだんに盛り込みました。今回は、宮本さんが業界のキーパーソンと「聞く技術」をテーマに語り合ったオンラインイベント「聞く技術フェスティバル」の内容を紹介します。聞くフェス2回目のゲストにお招きしたのが、伝説のカウンセラーとして経営者や著名人の間では知る人ぞ知る存在の松木正さん。普段は子どもから大人まで幅広い人の心の声に寄り添う松木さんは、どのように相手の話を聞いているのでしょうか。(構成/深谷百合子)

伝説のカウンセラーが教える! 語り手がハッとする気づきを促すきき方とは2021年11月に開催された聞く技術フェスティバル2021
伝説のカウンセラーが教える! 語り手がハッとする気づきを促すきき方とは松木正さん(左)。神戸でマザーアース・エデュケーションを主宰し、自分をとりまく様々な生命との関係をテーマに独自の環境教育プログラムを展開。子ども向けの人間関係トレーニングから、企業のリーダー育成まで、アメリカ先住民の知恵を前面に打ち出したワークショップなども展開している。

宮本恵理子さん(以下、宮本) 松木さんは、リーダー育成や子どもたちの教育に携わっているプロフェッショナルの間では有名な存在です。私が普段、取材をしているビジネスリーダーの方々が、「松木さんをとても頼りにしている」とおっしゃっています。松木さんに話をきいてほしいという方は、子どもから第一線で活躍するビジネスパーソンまで幅広くいらっしゃるそうですね。最近はどんな人のお話をきかれることが多いのでしょうか。

松木正さん(以下、松木) 僕は、カウンセリングの仕事を長くやってきました。自分を変えたいとか、何かの壁を突破したいという時に僕のところを訪れる人が多いですね。

宮本 悩みを解決するために、松木さんは「きく力」を発揮しているのですね。

 私は普段、取材で人の話をきくのですが、その場合は最後に記事にしなくてはならないので、目指す着地点をある程度設けて話をきいています。一方で、話し手には、その人自身も気づいていない新しい自分を見つけてもらいたいとも思っている。矛盾する思いを両立させながら話をきいているのかもいれないと、松木さんの著書『あるがままの自分を生きていく』を読んで感じました。そういう時に、大切にしたい姿勢についておうかがいしたいと思っています。

松木 僕はカウンセリングをする時、その人の課題を解決しようとは思っていないんです。なぜかと言うと、本当にその人が壁を乗り越えた時には、問題が問題じゃなくなるからです。目の前で起こっていることに対して、その人の受け取り方が変わっていくんです。

 カウンセリングではよく「周縁化」という言葉を使います。例えばある人が、「私ってこういう人だ」と思っているとします。それは、その人の中にある一部分にだけ光が当たっている状態なんです。実際には、その人の中にいろいろなキャラクターの自分がいる。スポットライトを浴びている自分と、光の当たらない陰の部分に追いやっている自分が存在しているわけです。

 実際にはたくさんの人が、普段の生活の中ではスポットライトを浴びている部分だけを意識しながら自分のアイデンティティを確立しているんです。

宮本 取材される機会が多くて、何度も同じ話を繰り返ししている人とか、同じような質問を多くきかれている人などは、スポットライトを浴びた自分の部分ばかりお話されていることが多いのかもしれません。

松木 その人の現実の世界はそこでできているからね。その人のアイデンティティとも深く結びついている。

 でも時々、自分でも意識していなかったようなことに気づいて「ハッ!」となるような瞬間がありますよね。その人が自覚している「外」の世界、自覚から遠いことに触れた時に起こります。僕のカウンセリングは、その人が自覚していないところに触れていくんです。そして、その人が自覚している「外」の世界は、シグナルで現れているんです。

宮本 まさにその方法を知りたいと思っています。私が取材をしている時にも、話し手は過去と同じエピソードを話しているのに、それまでとは異なる解釈をしてくださって、新しい気づきを得るようなことがあります。その瞬間、私はすごくうれしくなるんです。

松木 その人の自覚していない「外」の部分に宮本さんが触れた結果、その人の中で、「いま」が変わったんでしょうね。本人が変わって、同じ出来事でも見え方が変わった。すると、過去のストーリーまで変わっていくんです。(2022年1月14日公開予定の記事に続く)