正しい医療情報を伝えたい
Tomy:では、山本先生はこれからどういうものを書いていきたいとお考えですか。
山本:書くこと自体が好きで、「このテーマを書きたい」という特定のテーマはそんなにないんですけど、最終的に目指しているのは、医療をもっと身近に感じてもらうことです。医師とか医療という存在を、垣根の向こう側にあるようなとっつきにくいものではなくて、もっと理解しやすく、みんなが関心を持ってくれるようなものにしたいという思いが強いです。
1つの方向として、以前に書いた『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎新書)のような啓発要素を全面に打ち出した本はこれからもを書きたいと考えていますが、こういった本はもともと医療に関心のある人にしか届かない傾向があります。
そもそも医療に関心のない人に情報を届けるためには、『すばらしい人体』のように啓発色をなるべく消して、単純に「面白いな」と思いながら読み進めるうちに自然と知識が身につくような本も書いていきたいですね。
Tomy:文章以外に、動画、テレビ、ラジオにもチャレンジしたいというお気持ちはありますか。
山本:大学院生のときは、いろんなチャンネルで発信することが重要だと思い、あらゆるものに手をつけたんです。テキストだけではなく、YouTubeもインスタグラムもやったんですけど、その中で気づいたのは、1人でやることに限界があるということでした。
当然ながら個人にはキャパシティの限界があるので、情報発信というのは、学会とか公的機関といった組織で自らを守りながらシステマチックにやっていくべきだと思ったんですね。
自分が一番得意で、なおかつ好きなのはテキストでの発信なので、それは今後もやっていきます。同時に、学会などで組織的な情報発信に関わっていこうと考えているんです。
幸い、学会や病院、大学関連医局の広報委員としてお声がけいただくことが増え、今まで磨いてきた発信ノウハウを役立ててもらえることがわかってきたので、テキスト以外の発信は、組織のサポート役として取り組んでいくほうが、持続性があっていいかなと思っています。
Tomy:啓蒙という点では、僕も似たようことを考えています。
精神科でも、急に抗うつ剤をやめちゃう人とかいるんですよね。体調が悪くなってきたので、よくよく話を聞いてみると、「実は……」と告白する人もいれば、ケロッとして言う人もいます。理由を聞くと「本に抗うつ薬は怖いと書いてあった」とか「ネット上の知り合いが飲むなと言った」というケースが多いんです。
「僕よりネット上の知り合いを信用するんですか?」と言ってしまうと、二度と来てくれなくなってしまうので、そう言いたい気持ちを必死で抑えつつ、「あなたはこれを飲んでよくなったんですよ。やめたら悪くなっちゃいましたよね。急にやめるのは危ないんですよ。減らしたいんだったら、ゆっくり減らしましょうね」などと説明していくわけです。
勝手に薬をやめたことで直接命には関わらないですけど、間接的には自死という問題があるので、適切なときに適切なことができてないと危険なケースが多いんですね。だから意外なところで思わぬ曲解をする人がいますから、ちゃんとした知識を啓蒙するのはすごく大事なんです。
僕も引き続き文章で発信していきたいと思っているので、お互いに切磋琢磨できれば嬉しいですね。
(構成:渡辺稔大)