トヨタグループの約60社が参加する自主研究会

稲田 大野さんの偉業、考え方を踏襲して、今でもトヨタの中で実践されている取り組みなどはあるのでしょうか?

磯谷 大野さんの心と頭になって、その実績も勉強し、課題への取り組みを徹底していけば道は開け、事態は変わっていく。それを学び、体得しながら、実践を続けていることのひとつが、トヨタで行われている自主研究会だね。

稲田 トヨタの自主研は、私も在籍中に参加させていただいたことがあります。今はどのように運営されているのですか。

磯谷 いまはトヨタグループの約60社が数社ずつ10程のグループを作って、それぞれが課題を持ち、世界一、日本一のレベルを目指している。例えば、当社ではバンパーの品質、あるいは特定の部品の生産性をナンバー1にするなどの課題に取り組み、成果をあげてきている。

稲田 私のいた頃から、さらに進化していますね。結局、「考えて、実践して、振り返る」頭を組織内に根付かせていかなければ、企業の進歩などありませんね。いまは、社内に躾の文化がなく、言いっぱなしや「丸投げ」の文化が蔓延し、せっかくいい学校を出た方々がいっぱいいるのに、さらに頭と実践力を鍛え、しっかりと躾されることもないまま放置されるケースは、名の通った大企業でも見かけます。

磯谷 そうなっているとせっかく入ってくれた人材に、とてももったいないことになるね。

稲田 結果、磯谷さんがおっしゃられる「コト」を軽視して、「丸投げ」が横行します。そのような組織では磯谷さんの言われる「方策」、たとえば高額な対価を支払って、経営ツールの導入を行う、あるいは企業の活性化のための戦略などのプランを作ってもうまくはいかないです。

磯谷 そうだろうね。

稲田 理想としては、指導する側である上長自身が、「私なら、どう考えると思うか考えなさい」と言い切れればですが、数字さえも「丸投げ」がなされる昨今、これはなかなか難しい。本来は、部下に対して一子相伝式に能力をつけさせる指導は、当たり前のことではあるのですが、それがなされない、重視されない企業が増えたように感じます。