「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の”根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも”民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。
“消えた国ギリシャ”が東ヨーロッパとロシアに正教を伝播
ローマ帝国よりも古い古代ギリシャの血統を引き継ぐのがギリシャ人。
古代ギリシャの末裔というプライドを宿しながらも、「消えた国という悲劇」をポーランドなどと同様に味わっています。
ギリシャ語は極めて古い言語で、ラテン語以前は国際語でした。アラム語というマイナーな言葉で始まったキリスト教は、イエスの弟子・パウロによってギリシャ語の新約聖書が書かれたことで、ヨーロッパ全土に広がりました。
ギリシャは地理的には東ヨーロッパですが、ヨーロッパ全体を作った存在といえます。
ちなみに、現代のギリシャ語と古代ギリシャ語は、かなり異なります。大きく変わっているのは他のヨーロッパ語も同様で、「1000年以上前に書かれた源氏物語でも、古文の知識があれば一応理解できる」という日本語のほうが特殊です。
現在のギリシャのプライドはむしろ、新約聖書の言語という点よりも、正教会の拠点であることにあるといえます。4世紀にローマ帝国が東西に分裂して生まれた東ローマ帝国(ビザンツ帝国)は、ギリシャの世界。
別名のビザンツ帝国の「ビザンツ」はギリシャ語です。東ローマ帝国の誕生とともにキリスト教が東西に分裂して正教会が始まり、スラブ民族全体に拡大しながら、その文化に大きな影響を与えていきます。
しかし、東ローマ帝国は、13世紀初めに十字軍に占拠・分割されてしまいます。ようやく再建したと思えば、15世紀にはオスマン帝国に攻められ、コンスタンティノープルは陥落。
正教会の拠点はモスクワに移り、長きにわたって”ギリシャ人の国”は消えてしまいました。オスマン帝国の支配下でさまざまな民族との混血も進み、イスラム教徒に改宗する人も出てきました。
ギリシャがようやく国としてまとまるのは19世紀になってからです。第二次世界大戦ではドイツ、イタリア、ブルガリアに占領され、戦後もロシアの影響からくる共産主義と王党派の対立から内戦が多く、軍事独裁政権も長く続きました。
「ヨーロッパの創始者」を自負する民族でありながら、経済的には「EUのお荷物」として扱われることも多いのは、皮肉な話です。
経済的苦境にあるギリシャを経済支援しようとしているロシア。政治的理由が主ですが宗教が近いことによる親近感もあることでしょう。