行政には、不動産がわかる専門家がほぼいない

地域活性化プロジェクトなどで、圧倒的に欠けている不動産開発の視点とは?上田真路(うえた・まさみち)
建築家・不動産投資家 KUROFUNE Design Holdings Inc. 代表取締役CEO
ハーバード大学デザイン大学院で不動産投資と建築デザインを学び、投資理論とデザインの力を融合させたユニークな不動産投資を行う。現在5棟の超優良物件を保有。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院卒業後に鹿島建設入社。同社では鹿島建設社長賞、グッドデザイン賞、SDレビュー賞などを受賞。2016年、ハーバード大学デザイン大学院(GSD)へフルブライト留学。GSD不動産デザイン学科を卒業後、KUROFUNE Design Holdings Inc.(デザイン事務所兼不動産ファンド会社)を創業し独立。現在は住まいと学びを融合させた国際学生寮「U Share」を開発運営。慶應義塾大学、早稲田大学で「不動産デザイン」について教えている。初の著書に『ハーバード式不動産投資術 資産26倍を可能にする世界最高峰のノウハウ』(ダイヤモンド社)がある。

木下 人口減だから地方のプロジェクトが失敗するとか、不動産の価値が下がるってないわけです。たとえば、地方の不動産が下がるなんてマクロで言えば簡単なんですよ。人が減るんだから、今ある物件を壊さなきゃいけないんです。供給を絞れば不動産価値なんてバランスするはずなんです。

上田 そうですね。米国の住宅供給や土地利用のための面積規制などは、非常に厳しくコントロールされています。あんなだだっ広い国土でも人の集中すべき、住むべき場所、そして価値を徐々にあげて都市のインフレを保っていく施策を継続しているのは、都市計画、不動産事業への関与が官民共にしっかりとあるからですね。

木下 たとえば、ドイツだって一人あたりの住宅面積を市の政策でルール化して、人口が減ったときには公営住宅で古いものは壊して、民間住宅を借り上げてそれを公営扱いにするという、住宅補助形式で公営住宅を切り替えていったりするわけです。そうすると全体の総量は、人と供給される量がある程度バランスされるから、たとえば高齢になって自分が買った物件を売却しようと思ったときにも、ちゃんと価値がつくわけですよね。

上田 それは聞いたことがあります。

木下 でも日本の場合は、どうでもいいような住宅を田舎でハウスメーカーにばんばん建てさせているわけですよね。それで、ハウスメーカーは好業績とかをたたき出すんだけど、それで住宅の価値が下がっちゃって、老後資金がそれではもう地方では賄えないんですとかって言ってるんです。

上田 建てた瞬間から順調に資産価値が崩れていくハウスメーカー住宅を、サラリーマン与信により引いた住宅ローンで買わされているわけですよね。

 建てる業者側もそうですが、購入する側の資産価値に対するリテラシーが低い。そこに住宅ローンが容易くついてしまうという業界連動型の責任かもしれませんね。

木下 そうではなくて、もっとトータルに見て街の形をどうするかというのを、もっと公益自治体であったり、都道府県知事会とかも含めて、国民の住宅等を含めた不動産自体の資産価値をどう形づくっていくのかみたいなことを、ちゃんと考えていかないといけないんです。そういう政策がおざなりになっているのも、地方の問題だなと思いますね。

上田 そうですね。私の地元の高知や徳島もそうですけど、最近、建築家で市町村長になる人が増えてきています。そういう方は、街づくりのなかでどのボタンを最初に押したら地価や家賃が上がるのか、人が集まってくるのかというのが、なんとなくわかっています。結局やり方っていうのは、行政がお金を出して枠取りして、その枠のなかで民間が競い合ってやってくださいねじゃなくて、できる限りPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)とかPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法)でやるのがベストです。民間の資本活用のために、地方自治体が土地を貸すので、そこで民間がお金引っ張ってきてやってくださいねという、不動産投資と街づくりがセットになった方向でやるという形が最近増えてきています。

木下 そうですね。ただ、やっぱりまだまだ日本は本当に黎明期過ぎというか、行政側に不動産がわかる専門家がほぼいないんですよね。

上田 その通りですね。

つづく