口座から引き出された100万円が調査の行方を決めた
資料は様々なところから協力を得て収集している。「収集先秘」となっている資料も多く、たとえ、申告から漏れていることがはっきりしても、場合によっては修正申告を提出するよう説得できない時もある。資料を納税者に開示できなければ売上が漏れている事実を追及できないからだ。
H医師の案件は、結局、資料を開示することができずに、調査は終了までに2カ月以上かかった。最後の決め手は銀行調査だった。妻名義の口座から、たった一回の出金を調査した結果、出金に連動する動きがあった。
端緒の妻名義の口座から100万円を出金して別の妻名義の口座に入金し、150万円を旅行会社に振り込んでいたのだ。H医師には銀行調査を展開して、遠隔地口座に辿り着いたと説明した。
H医師と妻は芝田上席の説明に「ばれてしまったらしかたがない。好きにしてください」と言っていたそうだ。
ところで、H医師の修正申告額は、6年間で売上除外1700万円。追徴税額680万円、重加算税230万円という重たい処理となった。延滞税や市民税を考慮すると、除外した売上のほとんどが追徴されることになる。
上田は最後の調査でも、良い結果を出せたことに大いに満足していた。これで上田の最終章が本当に終った。大きな肩の荷を降ろした安心感の一方で、もう調査の神様に会うことができない。もう調査展開の醍醐味を味わえないことが、とても悲しかった。
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