危険には、社長が自ら大騒ぎする!

 それでも、危険につながりかねない事象は起こります。

 そんなとき、誰よりも社長である私が大声を上げて騒ぎます。

 わざと、しつこく、口うるさく。

「何でこんなことになっているの!?」
「これ、ルールに反しているだろう?」
「いつもこのやり方だったのか? それともこのときだけ?」

 間髪入れず、即座に問いかけるのです。

 実際、私にはすでに分かっている場合もあります。それでも、問いかける形にします。

なんで?
どうして?
どういう流れでこうなったの?

 多少大げさに演じてまで大騒ぎするのは、起こした当人に自分で考えてもらわなければならないからです。

 うちの社長は怖い、うるさい、だからちゃんとやらなきゃ……と思ってくれていいのですが、私は暴君になりたいわけではありません。

 従業員全員が安全対策を自分のこととして考えてくれるきっかけを、常に、あきることなく、何度も繰り返して提供することが責務です。

安全対策は意見を求め、
必ずマニュアル化

 起きた事故によっては、新しいルールや、既存のルールの改正が必要になることがあります。新しい設備や置き場などを作ったときの運用方法も同じです。

 その際は、勝手に決めず、必ず関わる人の意見を聞き、集約します。

 最後は安全と効率を考慮し、経営者の判断で決めることになるわけですが、それはあくまで最後の段階。中身をどうするかについて従業員が関わらないと、「勝手に決めたことだから」とか、「自分の考えとは違う」などという事態も招きかねません。

どうすればより安全になるか。
私はこう考えるけどみんなの意見はどうか。
このルールで困ることはないか。

 聞く耳は持つべきです。

 むしろ、何の意見も持っていないであろう従業員、安全や効率への意識が薄い従業員にも、たとえ有益な意見がなくても必ず聞くことにしています。

 こうして取り決めた方法は、すべてマニュアル化し、全従業員に文章で通達します。

 ポカミス防止、危険の発見は、経営者にしかできません。従業員は、自分の身の回りの危険に鈍感になって、むしろ当たり前だと思います。日頃からやっている作業なので、それが日常だからです。

 問題は、「だからウチの従業員はダメなんだ」と片付けてしまうこと。

 結局、事故が起これば、傷つくのは従業員たちです。

 現場の最前線で働いてくれている彼らとは違う、一歩高い視点、少し長い視点、社内外の物事や世間の動きと関連付けた視点で安全を常にチェックするのは、経営者自身の責任です。

 お金をかけて設備を設け、人一倍大きな声で注意を喚起すること。

 安全でもうかる会社を作り、社会のお役に立ちながらみんなが幸せになってくれればいい。

 なによりもこの過程が、常に現場を見つめ、安全で効率よく、爆発的にかせぐ現場作りに結びつくのです。

(本原稿は、平美都江著『なぜ、おばちゃん社長は「絶対安全」で利益爆発の儲かる工場にできたのか?』から一部抜粋・改変したものです)

平 美都江(たいら・みとえ)
平鍛造株式会社前代表取締役社長。現在は株式会社インプルーブメンツ代表取締役社長。1956年東京都生まれ。1977年日本女子大学理学科を、父の看病のため中退し、父が設立した平鍛造株式会社に入社。工場のオペレーターや営業職を経て、1986年専務取締役就任。宅地建物取引士、CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士などの資格を次々と取得。父の天才的な技術で製造される超大型鍛造リングにより、他の追随を許さない企業として急成長。その後、リーマン・ショックによる景気悪化などにより受注量が激減。型破りな父による強引な客先交渉が裏目に出て、2009年に廃業する事態に。会社存続の危機に追い込まれる中、代表取締役社長に就任し営業を再開。一度離れた顧客の信頼回復に努めつつ、数々の経営の合理化を進め、数年で業績を回復させる。2018年大手上場会社へ株式を90%譲渡するが、2021年6月まで代表を務める。その後、株式会社インプルーブメンツを設立し、代表取締役に就任。著書に、『なぜ、おばちゃん社長は価値ゼロの会社を100億円で売却できたのか――父が廃業した会社を引き継ぎ、受注ゼロからの奇跡の大逆転』(ダイヤモンド社)がある。