「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)から、多様性・SDGsの時代の世界基準の教養をお伝えしていく。
忖度しすぎは逆差別になる?
人種問題の話をすると、日本人は非常にナーバスになります。「深刻で難しい」と思うあまり、気を使いすぎてしまう傾向があります。
ビジネスパーソン向けの研修で「英語でblackというのは差別的でしょうか?」という質問をよく受けるのは、その表れでしょう。
また、あるウェブ媒体にアメリカの黒人差別について寄稿した際、私のつけた見出しの「黒人」という言葉に編集部からチェックが入りました。「黒人が前面に出ているのは、まずいんじゃありませんか」と。
どちらも忖度しすぎだと私は思います。黒人、ブラックを禁じたら、極端にいえば話ができなくなってしまいます。
「黒人でなくアフリカ系アメリカ人にしよう」という人もいますが、ハイチやジャマイカはアフリカではありません。「ハイチ系アメリカ人」あるいは「カリブ海系アメリカ人」とやっていたらキリがなく、「やっぱり白人についてもたとえばポーランド系アメリカ人とするか」という話になってきます。
英語で絶対にやめたほうがいい人種差別的な言葉は、いわゆるN語です。
ニグロやニガーは、黒人ラッパーが自らのことをいうぶんには問題ありませんが、他者がいったら侮辱であり、大問題になります。しかし、たとえば仕事の場で黒人の同僚に「黒人としてどう思いますか? You are black, so what do you think of this?」は失礼でない真面目なやりとりです。
「羹に懲りて膾を吹く」ということわざがありますが、過敏になりすぎては本質を見失ってしまいます。