メーカー(製造業)の仕事は、自動車、電機、食品……などの商品・サービスをつくって売ることですが、お客さまに満足いただけるものを過不足なくつくって遅滞なく届けるために、メーカーにはさまざまな機能があります。たとえば日頃よく耳にする「リスク」にはどのようなものがあって、メーカーはその種類に応じてどのように対応を変えているのか。メーカーを目指す人なら知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
地震やブルウィップ(サプライチェーンの上流にいくほど、需要動向が増幅される現象)のように、ものづくりのビジネスを止める要因となりうる事象、すなわちリスクに対して、メーカーはどのように応じているのでしょうか。
天災地変のようなランダムに発生する自然現象については、科学技術や経験に基づく知恵をもってしても発生そのものを防ぐことは困難です。他方、ブルウィップのようにビジネスのしくみに由来する現象については、条件さえ揃えばその発生を防ぐことが可能です。
このようなリスクの性質の違いに注目した場合、メーカーのものづくりにおけるリスクマネジメントは「原因」に注目して行うものと、「結果」に注目して行うものとに整理できます(図9-3)。
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リスクの「原因」に注目して行うリスクマネジメントでは、原因となる現象が顕在化する可能性をコントロールすることが目標となります。他方、リスクの「結果」に注目して行うリスクマネジメントでは、リスクが顕在化した後の影響(ダメージ)をコントロールすることが目標となります。
リスクの特徴とその対応
メーカーのビジネスは、顧客のニーズを充足することと同時に、自社の財務的な利益を確保することを目標としています。そのため、リスクマネジメントについても同様の観点より検討・実施されます。リスクが顕在化する可能性の大小とリスクが顕在化した後の影響の大小という二つの側面からメーカーのリスク対応方針を整理した場合、「事前対応(予防)」「事後対応(ダメージコントロール)」「許容」の3類型に大別されます(図9-4)。
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●事前対応(予防):
顕在化の可能性が高く、その影響が大きいリスクについては、前もって対策をたてることが望まれる。日常的に地震の発生する日本国内で操業する工場であれば、地震に伴う停電については予見性をもって対応すべきリスクといえる。
●事後対応(ダメージコントロール):
顕在化の可能性が低いものの顕在化した場合の影響が大きいリスクについては、認識はしつつ、対応自体は事後的に行われる。また、このような事後対応は、港湾ストのように顕在化の可能性は高いものの、ほかの輸送モード(たとえば空輸)を切り替えることで解決できるなど、顕在化した場合の影響が大きくないと考えられるリスクに対しても踏襲される。
●許容:
落雷による一時的な停電のように、顕在化の可能性が低く、かつ顕在化した場合の影響も大きくないリスクについては、極力対応の手間をかけないことが判断として合理的といえる。リスクが顕在化してもあえてそれを受け止める判断がなされる。