韓国は対中輸出が大幅減速
台湾は米中対立が追い風に

 両国がアジア四小龍と呼ばれた時代、台湾は経済と貿易の自由化を進め、国営事業を民営化し、電子産業を発展させることに全力を挙げた。中小企業が急速に成長した時期でもある。韓国はこの時期、鉄鋼や自動車といった重工業を重視し、財閥を支援した。しかし1997年のアジア通貨危機により、過剰債務を抱えていた財閥は大きな痛手を被り、韓国経済は失速した。

 ところが2000年代になると、台湾では90年ごろから起きていた中小企業の中国への流出で産業の空洞化が進んだ一方、韓国では金融経済システムの国際化が進み、財閥企業による規模のメリットを生かした経営が成功した。

 そして現在の状況は、台韓経済の3回戦目に突入したといえるわけだ。ここで台湾が逆転しようとしている背景にあるのは、韓国経済が壁に突き当たっていることだ。

 中華経済研究院の王健副院長は、「韓国経済を支える財閥企業はスケールメリットという点で秀でているが、景気悪化の局面では対応に遅れる面がある」と指摘している。

 また経営規模の大きさという点では、韓国の財閥よりも中国企業の方が大きい。そのため、中国企業によって韓国の財閥から市場が奪われ、技術力の面でも逆転されるという現象が起きている。韓国経済は対中輸出に依存して成長を遂げてきたが、もはや対中輸出の大きな伸びは望めなくなっている。

 韓国経済が壁に突き当たっているのとは対照的に、台湾は米中対立を受けた世界的なサプライチェーンの見直しを経済成長の追い風としている。蔡英文総統が17年に産業革新を推進する政策を導入したことも相まって、台湾企業が中国から回帰しているだけでなく、米グーグルや米マイクロソフトといったグローバル企業も台湾に投資するようになっている。

 新型コロナウイルスの感染拡大があっても、台湾では都市封鎖が行われず、企業活動が継続でき、輸出の伸びは韓国よりも高かった。この間、台湾ドルの上昇が進んでおり、本来なら輸出には不利な為替環境だ。しかし台湾ドル高のマイナス要素に企業の競争力が勝っており、通貨高は1人当たりGDPを膨らませる結果となっている。

 台湾経済は目下繁栄の局面にあるが、王副院長は「台湾が有利なうちに、産業の転換を図り、医療や宇宙産業のような次世代の重要産業を育成しなければならない。またさまざまな金融的手段で企業が資金調達し、十分な研究開発資金を獲得することを妨げてはいけない」と指摘する。

 韓国では大手100社の研究開発費がコロナ禍のさなかの20年に前年比3.3%伸びている。その投資分野は半導体やITだけでなく、次世代自動車や水素エネルギー、航空宇宙産業など幅広い。財閥企業はこの転換期に巨額の投資を断行しており、台湾に多い中小企業を圧倒する資本力を見せつけている。

 韓国の次期大統領である尹錫悦(ユン・ソンヨル)氏は親米派のため、これまで米国の支援を得てきた台湾のアジアにおける立ち位置が変わる可能性もある。

 台湾と韓国の競争はこれからもまだ続く。これまでの歴史を振り返り、世界経済の変化を理解することで、台湾経済の進むべき道はおのずと見えてくる。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata