「失敗しても、学びになればいい」と思っている人は、いつまでも前に進めない理由

創業15年を迎えた株式会社じげん代表取締役社長CEOの平尾丈氏は、上場以来12期連続で増収増益を達成し、その急成長ぶりで注目を集める気鋭の起業家だ。 大学時代にベンチャー2社を創業し、その経営権維持を条件に入社したリクルートで「10年に一人の逸材」と言われ、25歳でグループ会社社長に就任。MBO(マジメント・バイアウト)での完全独立を経て、30歳で東証マザーズ上場、35歳で東証一部へ変更。
起業家として華やかな経歴を持つ平尾氏だが、その陰には、「正解のない時代」に成果を出すための独自の打ち手「別解」を生み出すための地道なフレームワークの歴史があった。
平尾氏初の著書となる『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』では、その「別解」の導き方を詳しく解説している。そこで初のロングインタビュー第4回目は、「別解」につきものの「失敗」との向き合い方、失敗の回避の仕方について聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

失敗しても前には進まない

――平尾さんは会社員時代も起業してからも、大きな失敗なく順調に成功した方だと思っていました。でも失敗もたくさん経験して、大きな失敗を避けるためにあらゆる手を打ってこられたんですね。著書にその具体策まで細かく書かれていたのは意外でした。

平尾丈(以下、平尾) 最近は、「失敗するのはいいこと。失敗から学ぼう」という考え方に注目が集まっていますよね。でも私の経験では、失敗しても前に進めません。成功しか前に進めないと思うのです。

 失敗は確かに学びになります。でも自信は増しませんし、信用も上がりません。しかも失敗から学ぶときは内省するので、停滞している時間がもったいない。マラソンと同じで転ぶとやっぱり痛いですし、立ち上がるまで時間もかかります。それが自分だけの問題だったらまだいいですけど、多くの場合、関係者も巻き込んで迷惑をかけてしまいますから。

 コロナ禍の影響で、私の会社も初の赤字になりました。今まさに痛みを耐えているところです。幸いなことに致命傷ではありませんが、リカバリーするまで時間もお金もかかります。時間は有限で待ってはくれないので、避けられる失敗はできるだけ避けたほうがいいというのが私の考えです。

失敗リストと仮想失敗でリスクヘッジする

――に書かれている「失敗リスト」の日々の更新も、仮に失敗してみる「仮想失敗」も、失敗して致命傷を負わないためのリスクヘッジなんですね。

平尾 どんな物事にも失敗はつきものです。『起業家の思考法』でもっとも重視している「別解力」も、前例や当たり前のこととは違うやり方を考えるわけですから、失敗することもあります。けれども失敗と成功は両輪で、リスクが大きければリターンも大きい。だから失敗を怖れずに、リスクとの向き合い方をしっかり考えておく必要があるのです。

 その1つが失敗リストです。事前に想定した失敗のリストに基づいて失敗を回避して、それでも起こった失敗をリストに加えていきます。このリストをストックしていくと、失敗するパターンがわかるのでより高い可能性で失敗を避けられるようになります。

 また、「別解」による成功パターンを遂行するうえで、どのような失敗が想定されるか、一番厳しい失敗は何か、といった仮想失敗についても常に考えています。そこまで事前にイメージトレーニングして、場合によっては対策を打つことで、深刻なダメージを回避しているのです。失敗経験がある起業家は痛さを知っているので、そこはしっかりマネジメントしていると思います。

 ただ、成功した打ち手について語る人はたくさんいますが、致命的な失敗をしない理由を語る人はめったにいません。だから今回の本で、私が普段からやっているリスクヘッジの方法をすべて書きました。