企業側はどこに気をつけておくべきか?

星:日本企業の透明性はアメリカと比べてこれまで閉じていた中で、ESGの浸透というのは、今までの企業文化に対して、水と油のような関係になってしまうことはないのでしょうか。

保田:なると思いますね。特にESGの「S」(ソーシャル)と「G」(ガバナンス)ですね。
やはり社会環境が日本と欧米で違いますよね。

 そして「S」によく見られるのが、ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(受容)
日本の場合は非常に遅れていて、女性比率が低い。

 よく議論されるのはM字カーブですよね。

 女性の20代後半から30代、40代のあたりの就業率が低いから、それを解消するために、職場でのダイバーシティを受け入れるべきだといわれています。

 近年では、表面上のM字カーブは解消されつつありますが、経営層、管理職における女性比率は依然低いままです。

 一方、アカデミックの研究を見ると、ダイバーシティ&インクルージョンができている会社はイノベーティブであるという研究結果が出ているんですよね。

 そのため、アメリカの企業、ヨーロッパの企業はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進していますが、日本はD&Iを推進する理由がよく定まってない気がします。

星:日本では、まだ倫理的な指標にとどまっていて、それがどのような実践的な価値になるのか?まで煮詰まっていないように思えます。

 ESG投資が世界的に伸びている中で、その方向に向かっていない会社にいることはリスクが大きいように思います。

 そうした背景を踏まえて、会社員の立場からすると、会社選びの時や会話内での立ち回りで気をつけるべきことなどはありますか。

保田:やはり今の企業は、ESG的な取り組みをしていないと選ばれにくい流れにあることは間違いないですよね。

 そこで一つポイントになるのは会社内での「人的資本への取り組み」を見ることです。

 例えば、女性比率やダイバーシティ(多様性)を高めるための活動や研修など、人的資本への投資の姿勢を通して、ESGへの取り組みを確認することが大切です。

 もう一つ、組織としての活力を考えた場合に重要なのが年齢のダイバーシティ(多様性)です。

 今、世界的な消費者はジェネレーションゼット(Generation Z:Gen Z)とミレニアルズが中心を占めています。我々のような40~60代だけの感覚で物事を意思決定してしまうのは問題ですよね。

星:結局、ESGの拡大は自分たちの日々の働き方にも直結してきますよね。

 では、会社のESG評価を定量的な面で見たい場合、何かいい方法などありますか。

保田:業界内での比較が一つだと思います。

 最近いろいろな会社が、環境コストの開示を始めたり、カーボンゼロを目標にしたりしていますよね。

 例えば、2030年や2050年までに25%、50%削減するなど、そういった数字を同業他社と比較すること。

 そしてもう一つは事業ポートフォリオです。

 ESGは社会課題ですので、社会課題を解決することをミッションに掲げていれば、自動的に事業ポートフォリオは変わります。そこを確認することが大切です。

星:なるほど。また、先生が4月に出された『ESG財務戦略』の本にも書かれていると思いますが、企業側が今までと違う方向に取り組みを変えていく可能性もありますが、具体的にはどういった課題に直面していくのでしょうか。

保田:1つは収益をきちんと得られるか。つまり価格付けですよね。

 ESG的な商品を消費者に売る際に、手間がかかる分、価格を上げないと収益は上がりません。
商品が価格に見合っていないと消費者の心を捕まえられないでしょう。

 商品がどうESG的に素敵なのか、きちんとメッセージを発信することが重要になります。

 2つ目は、従業員のマインドセットや対応力です。

 日本企業の場合、従来の仕事の延長線上での研修や、OJT(「On-the-Job Training」の略で、職場での実践を通じて業務知識を身につける育成手法)が主流でしたので、キャリアスイッチング的な研修は得意ではありません。

 だから多くの会社は「デジタル化とか面倒くさいからやめようよ」といったメンタリティに陥ってしまいがちだったりします。

 ですから、いかにそういう対応を柔軟にできる組織をつくっていくのかにかかっています。