初の著書『伝わるチカラ』を上梓するTBSの井上貴博アナウンサー。実はアナウンサーになろうとは1ミリも思っていなかったというのだが、一体どのようにして報道の第一線で勝負する「伝わるチカラ」を培ってきたのだろうか?「地味で華がない」ことを自認する井上アナが実践してきた52のことを初公開! 人前で話すコツ、会話が盛り上がるテクなど、仕事でもプライベートでも役立つノウハウと、現役アナウンサーならではの葛藤や失敗も赤裸々に綴る。

【TBSアナウンサーが教える】<br />テレビ局に就職した意外な理由とは?

敵が多そうなテレビ業界で成長につなげる

【前回】からの続き

さすがに不合格になったと思いましたが、気持ちはせいせいしていました。

楽しい経験ができただけでもう十分。気持ちを切り替えて、テレビとは無関係の業界に進むつもりでした。

ところが、世の中、本当に不思議なことが起こるものです。しばらくして、絶対に不合格と思っていたTBSから内定通知を受けとることになるのです。

しりとりで25秒間笑い続けた私が、どうして採用されたのか。いまだに理由はわかりません。緊張する様子もなく、図太そうに見えたのが幸いしたのでしょうか。

内定を伝えると、家族も友人たちも驚いていました。しかし、一番驚いていたのは自分自身でした。

TBSから内定が出たのは率直に嬉しかったのですが、テレビはもともと志望していなかった業界です。気持ちのなかで、このままアナウンサーになってよいものか、踏ん切りがつきません。

そのため、あらためて自分の進路についてじっくりと考えました。

先輩に相談すると、異口同音に言われたのが「自分と合う人が多い(と思える)会社がベスト」ということです。たしかに居心地のいい職場で、気の合う人に囲まれて仕事をしたほうが、いい仕事ができそうです。

でも、なぜかそのときは、あまのじゃくな反骨心のスイッチが入ったのでした。

自分と合う人が多い会社に行ったら、ラクに働けるのは当たり前。果たして、それが自分の成長につながるだろうか? 自分の性格を考えたら、あえて居心地の悪い会社に行くべきではないか?

敵が多そうな業界といえば、1つしかない。テレビだ!

こうして私は、自分にとってアウェーな世界だと感じていたテレビの世界に飛び込もうと決意したのです。

本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。

井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんたが降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、初の著書『伝わるチカラ』刊行。