直木賞作家が経営再建した書店で
アナウンサーの本を売る

井上:直木賞作家が書店(注:大阪府箕面市「きのしたブックセンター」)を経営しているって、知らない人も多いと思うけど、最初はどういう経緯だったの?

今村:M&A(注:企業の合併・買収)を手がける会社で働く知り合いから、「阪急電鉄の箕面駅近くの書店がなくなる。うちは扱えへんけど、どう?」と言われて。最初は「同じ出版業界やけど、作家と書店経営は畑違いやから無理よ」と話してたけど、その書店がなくなったら、箕面駅から徒歩で行ける本屋がなくなるというのを聞いて、とにかく見に行ってみた。

そうしたら店内で、小学2年か3年生くらいの女の子が、おばあちゃんに絵本を買ってもらっている光景が目に入って、「こういう光景がなくなるのか……。この女の子にとって思い出になる場所がなくなるのか」と思った瞬間に「やる」と言っちゃってた。

そうはいっても、自分の会社の社員にリスクを背負わせることになるから二の足を踏んでいたけど、社員みんなが書店経営できる方法を必死に考えて、背中を押してくれた。正直、1人じゃできなかった。

井上:書店の再建に乗り出してみて、どうだった?

今村:「今村書店」じゃなくて「きのしたブックセンター」のままのほうが再建できる可能性があると思った。作家が趣味や遊びでやってるようにも思われたくもなかったし、純粋に「きのしたブックセンター」を守りたかったから。

守るということは、きれいごとじゃなくて経営を立ち直らせるということやから、数字は結構細かく見てる。おかげさまで、昨対140パーセント以上で立て直せている。

井上:それは立派。

今村:できるかぎり僕がいなくても、売り上げが立つような仕組みを考えてる。以前は、店長さんが十数年勤めて1回も給料上がらなかったみたい。でも僕に代わって、ちょっと給料上げたんよ。それでまた雰囲気が変わってきてる。同じテナントビルに入ってる人が、うちのスタッフを見て「別人みたいに明るくなった」って言ってくれてる。

井上さんの『伝わるチカラ』、大量発注するからね。サイン書いてくれる?

井上:それは、もちろん。今村さんの書店に僕の本を置いてもらうのは、本当に光栄なことだと思う。

視聴者・聴取者を裏切っていきたい

今村:井上さんは、ラジオが始まったばかりだけど、他にもやりたいことあるの?

井上:いい意味で、見てる方、聴いてる方を裏切っていきたい。良くも悪くも、僕のイメージが定着しているところもあるし、レッテルを貼られてしまっている部分もある。だから、その逆を行きたいというか、イメージとかレッテルを大胆に覆していきたい。「この人何をするかわからない」「こんなこともできるの?」という部分を常に見せていきたいとは思う。特にラジオでは、それができるんじゃないかな。

あと、走っている中で「やりたいこと」は変わっていくものだし、変わることがいけないとも思わないから、数年後には何をやっているかわからない。

今村さんは?

今村:子どもたちに向けて、すそ野を広げる活動をしつつ、それだけだと守りに入ってしまうから、もっともっと突き上がっていきたい。歴史小説家のくくりでは、昭和が司馬遼太郎やったら、令和は今村翔吾って言われるぐらいまでいきたい。さらに頑張って、教科書に載りたい。教科書載るって、格好よくない?

同い年の僕らは、30代がもうすぐ終わろうとしてるけど、なんかやり残したことないかな。あ、結婚か!?

井上:未婚の僕たち、一緒に飲んでても最終的には結婚の話になるね(笑)。

今村:40までにお互い結婚だな。今度、ちゃんとした合コンしよ。

※本稿は『伝わるチカラ』(ダイヤモンド社)の刊行を記念しての特別対談です。