3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が「何でもできる起業家」と尊敬するのがCARTA HOLDINGS代表取締役会長兼CEOの宇佐美進典氏。トーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)に入社後、転職を経て1999年に起業。2001年にサイバーエージェントと資本業務提携。2012年にMBOし、2014年にマザーズ、2015年東証一部へ上場させている。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第2回は、過去の偉人の「優れたやり方」と、自分が考える「自分らしいやり方」を、どのようにしてうまく融合させればいいかという話題から。
(写真 株式会社じげん・津田咲 構成 新田匡央)
「別のやり方」を取り入れざるを得ない
――『起業家の思考法』では、人のやり方を真似しているだけではなかなかうまくいかないという話が書かれています。
宇佐美進典(以下、宇佐美):ある人が、その人の前提条件のもとでうまくできたやり方と、自分の前提条件のもとでそのやり方がうまくいくかどうかは別次元の話です。前提条件が変われば、それをそのまま真似するだけでなく、一度抽象化し、抽象化したものを自分事に置き換えて具体に落とし込むプロセスが必要だと思いますね。
たとえば、サイバーエージェント(以下CA)の役員をやっているときに、新卒採用の強さを目の当たりにしました。このとき、自分の会社がCAと同じような新卒採用ができるかと考えても、当時は当然のことながらできないわけです。
なぜなら、新卒の学生がCAとVOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)を両方受けたら、99%CAに行きますよね。それがわかっているので、どうしたら1%を10%にできるかを考えなければなりませんが、同じことをやっていても差別化はできません。
平尾丈(以下、平尾):CAのどこが強いと思ったんですか? 1:99は意外でした。
宇佐美:採用にかける熱量ですね。採用が経営の中枢だということが、組織の隅々にまで浸透していました。一方、当時のVOYAGE GROUPは、私が「採用は大事だ」と言っても、それが現場の面接を担当する社員や、人事部に伝わっていませんでした。同じ熱量、同じ温度感で取り組んでいたかというと、決してそうではなかったのです。
平尾:でも、CAを見て取り入れられたんですよね。
宇佐美:取り入れたのは「会社として採用に力を入れることが最重要課題である」という方針を浸透させることです。
平尾:なるほど。
宇佐美:そもそも、CAはすでに上場していて、「21世紀を代表する会社をつくる」というビジョンも掲げていました。すでに「できた組織」です。そんなCAとVOYAGE GROUPのような「発展途中の組織」を比べたとき、どこで差をつけられるかを考えましたね。働いている人のレベルは変わらないはずです。だとすると、自分たちはこんな会社であり、そこで働く私たちはこんな人たちであると、学生にどのように見せるかで勝負しようと思いました。「私たちらしさ」ですね。そこで、社員と学生の接点を早期につくり、接触回数を増やせば勝てる可能性も出てくると考えたのです。
平尾:さすが宇佐美さん。一気に別解まで昇華されますね。
宇佐美:どの企業よりも早く学生に会い、先に密度の濃いインターンシップで接点を持つ。それによって社員とのエンゲージメントをつくるようにしました。そこまでやると、そもそも就活をしなくなり、そのまま入社を希望してくれるようになります。CAと戦うのではなく、CAという選択肢を持たせない。受けないで済むようにするということです(笑)。戦う前に勝つというか、戦ってはいけない(笑)。
平尾:「超」別解ですね。