「優れたやり方」に飛びついても、「自分らしさ」がなければ頓挫する

平尾:宇佐美さんの別解シリーズ、もっと出してほしいですね。

――いま、現在進行形のことでもいいんですけど。

宇佐美:そう考えると、あまりないかもしれない(笑)。

平尾:言えない話もありますからね。

宇佐美:あ、別解ではありませんが、ソーシャルゲーム(ソシャゲ)がブームのときの話はうまく真似できなかった例になるかもしれません。私たちもあの当時、深い考えもなくソシャゲに手を出しました。ただ、3周目ぐらいだったはずです。1周目はミクシィのプラットフォーム。2周目はグリーのモバゲー。私たちは最初のうちは様子を見ていただけですが、3周目ぐらいでそろりと手を挙げた。

平尾:当時、多くの方が「ソシャゲブーム」に参加されているのを様子見していましたからね。

宇佐美:でも結局、やってみたけれどうまくいきませんでした。その原因として、この参入は「自分らしいやり方」ではなかったことに気づきました。ソシャゲの「ゴールドラッシュ」が起こっているときに、私は金を掘りに行くタイプではない。あれは、瞬発力がある人に向いている突破の仕方だと思いました。

平尾:なるほど。

宇佐美:肉食獣の短期決戦、短距離の障害物競走。さまざまな障害をかわしてうまくたどり着くのが得意な人がやることです。私はどちらかというと、マラソン的なアプローチをするほうが得意ですし、そのほうが好きなんですよ。

平尾:みなさん、得意・不得意がありますね。今も残っている人で、あのときは「優れたやり方」だったソシャゲに行った人と行かなかった人で、顛末は変わってきてしまいましたね。もちろん、ソシャゲで勝ち続けた会社もたくさんありますが。

宇佐美:ええ。

平尾:私は最近、SaaSが同じようなテーマに見えてしまうんです。SaaSもいいなと思って少しやっていますが、「優れたやり方」は、やればできるのですが、あまり長続きしない。SaaSは、向いていないと思いながらも、気になりますね。

宇佐美:私は性格的にSaaSに向いていそうな気もしますが、今はそれほどやっていませんね。

平尾:向いていない。その意味で言うと、宇佐美さんは「向いていてもやらない」ものと、「向いていないけれどやる」ものがあるんですか。

宇佐美:タイミングです。どうしても「優れたやり方」にリソースを置いてしまうと、現在は存在しない新しいビジネスモデルをつくるより、すでに存在するビジネスモデルを変えていく方向に向かっていってしまうんです。

起業家が「歴史」からビジネス戦略を立てる理由宇佐美進典(うさみ・しんすけ)
CARTA HOLDINGS 代表取締役会長兼CEO
1996年、早稲田大学商学部を卒業後、トーマツコンサルティング(株)(現デロイトトーマツコンサルティング)に入社。大手金融機関の業務改善プロジェクトやシステム化プロジェクトにコンサルタントとして従事。その後ソフトウェアベンチャー企業への転職を経て独立を決意し、1999年に(株)アクシブドットコム(のちにVOYAGE GROUPへ社名変更)を友人と創業。代表取締役社長兼CEOとして創業以来19年連続での増収を牽引。2001年サイバーエージェントと資本業務提携し、2005年から2010年までサイバーエージェントの取締役も兼務し、技術部門担当役員として技術部門の強化に携わる。2012年にサイバーエージェントよりMBOさせ、2014年マザーズ上場、2015年東証一部へ市場変更を推進。2019年のCCIとVOYAGE GROUPの経営統合に伴い、(株)CARTA HOLDINGSの代表取締役会長に就任。